■九州保健福祉大学が臨床研究
九州保健福祉大学薬学部の河内明夫教授、富高薬局などの研究グループは、かぜ症状がある来局者を対象に薬局でインフルエンザウイルス検査を行い、陽性者に対して薬剤師が受診を勧奨する臨床研究を実施している。昨シーズンに実施した研究では利用者の約3割にインフルエンザウイルス陽性反応が見つかり、受診を勧奨した。病院や診療所に加え薬局でもこの検査を行える体制を整備することによって、インフルエンザ患者を地域から幅広く見つけ出せるようになる。この体制は、特にパンデミック発生時に効果を発揮するという。研究グループは今年の冬も同様の臨床研究を実施し、その成果を検証する計画だ。
昨シーズンの臨床研究は千代田病院、宮崎県日向保健所、日向市・東臼杵郡薬剤師会などの協力を得て、国の科学研究費をもとに実施した。日向市にある富高薬局の1店舗に簡易検査ブースを設置。昨年12月から今年3月末まで、研究の趣旨を説明し同意を得た52人に対し、インフルエンザウイルス検査を無料で行った。
検査時にはまず、発熱、咳、鼻水、くしゃみ、頭痛など現在の症状や、かぜをもらった場所、予防接種の有無などを調査票に記入してもらい、体温も測定した。その上で鼻にビニールシートをあてがって鼻かみ液を採取し、それを検体として検査機器でインフルエンザウイルス検査をその場で実施した。
その結果、52人中15人(28.8%)にインフルエンザウイルス陽性反応が認められた。陽性者に対して薬剤師は、早めに医療機関を受診するよう勧奨したほか、水分を十分に補給すること、マスクを着用すること、外出を控えることなどを伝えた。
一方、陰性者に対して薬剤師は、発症初期にはウイルスを検出できない場合があることも説明し、発熱や咳などの症状があればインフルエンザに罹患している可能性があることなどを伝えた。
52人中、医療機関受診前に来局した利用者は36人で、そのうち7人は陽性だった。一方、医療機関受診後に来局した利用者は16人で、このうち8人に陽性反応が認められた。受診時には感染早期のため検査が陰性だったが、その後時間が経過し陽性反応が出現したと考えられたという。
2週間後、利用者に調査票を郵送し経過を聞いたところ、回答があった24人のうち陽性者7人は全員受診してインフルエンザと診断され、処方薬の投与を受けていた。陰性者17人のうち受診した6人は全て、インフルエンザではないと診断されていた。受診しなかった11人は自宅で療養し、自然に緩解していた。
また、薬局でのインフルエンザウイルス検査を今後利用したいと思うか聞いたところ、24人中22人(91.7%)が「そう思う」と回答した。
研究代表者の河内氏は「検査結果に基づいて明解に受診勧奨を行える。薬剤師もやりがいを感じている」と述べ、「パンデミックが起こった時にも薬局が交通整理を行える」と利点を強調する。陽性者の中には、解熱鎮痛剤の常用によって発熱などの症状が抑えられている患者もいた。
研究グループは今シーズンも11月頃から同様の体制で臨床研究を実施する。かぜ症状を示す患者や地域住民の中に潜在するインフルエンザ罹患者を効率良く発見し、受診勧奨に導くことは地域保健の向上に寄与するとして、その効果をさらに検証する計画だ。