腸管上皮細胞と亜鉛トランスポーターとの関係に着目
理化学研究所は10月14日、細胞内の亜鉛濃度を精密に制御する亜鉛の輸送体(亜鉛トランスポーター)のひとつ「ZIP7」が、腸管上皮細胞の増殖と幹細胞の維持に重要な働きをしていることを発見したと発表した。この研究は、徳島文理大学薬学部の深田俊幸教授、慶應義塾大学薬学部の長谷耕二教授、富山大学大学院医学薬学研究部(医学)の大橋若奈助教を中心とする共同研究グループによるもの。研究成果は「PLOS Genetics」オンライン版に10月13日付けで掲載されている。
画像はリリースより
亜鉛は生命活動に必要な微量元素のひとつであり、生体内の量が低下すると、味覚異常、インスリン代謝の異常、創傷治癒の遅延、免疫機能不全など、体内のあらゆる機能の異常をもたらし、糖尿病をはじめとするさまざまな病気と関連している。また、以前から亜鉛の不足は消化管の炎症や腸粘膜構造の異常と関わるとされてきた。腸粘膜構造は、腸管上皮細胞が増殖と分化を絶えず繰り返すことで維持されている。しかし、亜鉛が腸管上皮細胞の増殖と分化を制御する詳しい仕組みは不明だった。
そこで、共同研究グループは、腸粘膜を覆う腸管上皮細胞と体内の亜鉛濃度調整を担う亜鉛トランスポーターとの関係の解明に取り組んだ。
ZIP7機能を制御する化合物の発見による新たな疾患治療法の開発に期待
共同研究グループは、役割が不明であった亜鉛トランスポーターZIP7に注目し、ZIP7の遺伝子欠損マウスを用いて解析を行った。その結果、ZIP7を欠損すると腸粘膜構造が維持できないことを見出した。さらに、ZIP7を欠損すると小胞体ストレスが異常に高まり、細胞死が誘導されることがわかった。その結果、幹細胞が失われ、腸管上皮細胞が死滅し、腸粘膜構造が崩壊することを明らかにしたとしている。
今回の成果は、亜鉛トランスポーターZIP7が腸管上皮細胞の増殖制御に必要であり、腸粘 膜の維持に必須であることを示すもの。腸粘膜の恒常性の破綻は、炎症性腸疾患やがんなどの病気の引き金になる危険性を有している。今後、ZIP7と疾患との関連を研究し、ZIP7 の機能を制御する化合物を見つけることで、新たな疾患治療法の開発につながることが期待されると、共同研究グループは述べている。
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