フォーミュラリーが国家施策の観点からも注目を集めるようになったのは、安倍内閣が示した「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)がきっかけだ。今年6月の骨太の方針2016には「生活習慣病治療薬等の処方のあり方等について今年度より検討を開始し、2017年度中に結論を得る」との文言が盛り込まれた。財務省の財政制度等審議会財政制度分科会でも、高額な降圧薬ARBが国内医薬品売上の上位を占めることを例に「生活習慣病治療薬等について処方ルールを設定すべき」との案が示されている。
骨太の方針に沿って今後、フォーミュラリーの仕組みなどを参考に具体的な検討が進められる見通しだ。高額な新薬を過剰に評価して多用するのではなく、年月が経っていても有効性や安全性、経済性に優れた医薬品やジェネリック医薬品を適正に評価し、積極的に使用する仕組みをどう構築するかが焦点になる。
分科会で安川孝志氏(厚生労働省医薬・生活衛生局総務課)は「行政としてもフォーミュラリーをどういったことに活用できるのか、これから検討しながら考えていく」と説明。その上で私見として、薬剤師に対し「フォーミュラリーの作成や活用を含め、薬剤の特性を踏まえた適切な薬剤選択や、適正使用のための情報収集、提供に積極的に関与してもらいたい」と求めた。また、「製薬会社からの情報だけに頼るのではなく、自分たちで必要な情報を収集し、どういった薬を選択すべきかをしっかり医師に提言できるように能力を発揮してもらいたい」と呼びかけた。
さらに、フォーミュラリーはジェネリック医薬品にも関係すると指摘。各地域で公立、公的病院が採用しているジェネリック医薬品リストが公表されているとし、「こういったものが地域におけるフォーミュラリーの使い方の一つになるのではないか」と語った。
■第1、第2選択薬を明示‐9薬効群でフォーミュラリー
国内でフォーミュラリーを導入している病院の一つが、聖マリアンナ医科大学病院だ。同院は現在、ACE阻害薬・ARB、スタチン、グリニド系糖尿病薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、プロトンポンプ阻害薬(注射薬、経口薬)など九つの薬効群を対象にフォーミュラリーを策定している。これら9薬効群では院内使用における第1選択薬、第2選択薬の基準を決定。医師のオーダ時などに注意喚起し、その使用を促している。
同院は同種同効薬の採用を原則2剤までとし、ジェネリック医薬品等の安価な薬剤を優先して採用している。実際に9薬効群の第1選択の多くをジェネリック医薬品が占め、フォーミュラリーはその使用促進に役立っている。
新薬の評価はまず薬剤部が行い、臨床上の必要性を「代替治療はあるが新しい機序の薬剤ではある。しかし既存治療を上回るエビデンスは不十分」「代替薬はないが同効薬が多数存在する。必要性は低い」などの5段階で評価する。その上で既に同種同効薬が採用されている場合には、医師と薬剤師で構成されるフォーミュラリー小委員会で必要性を評価し、薬事委員会で採用可否の最終的な決断を行う。
同院薬剤部の上田彩氏は「標準治療の実践にはガイドラインと関連づけたフォーミュラリーが有効とされている。当院でも医師と薬剤師の連携でフォーミュラリーを作成し、有効性と経済性に優れた薬物治療の管理の実践に貢献できている」と報告。課題として「有効性や費用対効果を比較したデータが不足しているため、ジェネリック医薬品のない同種同効薬群へのフォーミュラリーの運用はまだできていない」としたほか、「外来処方に関してはフォーミュラリーを運用していない」と語った。
一方、薬局薬剤師の立場から講演した嶋元氏(川崎市薬剤師会会長)は、中学校区などの単位で地域医薬品集を作成することが効率の良い医療につながるとし、それに向けてまずは「近隣の病院や診療所の採用医薬品を調査し、薬局ごとの採用医薬品集を作成するべき」と話した。その上で、有効性や安全性、経済性を考慮した地域医薬品集の策定が視野に入るが、薬局は多種多様の処方箋を受け入れているため、薬を絞り込む作業は「非常に難しい問題」と話した。
このほか川上純一氏(浜松医科大学)は、有用性は高いが薬価改定によって採算が厳しくなった医薬品の薬価を維持する「基礎的医薬品」の仕組みが今年度の薬価制度改革で導入されたことに触れ、「高額な薬剤の使用をどう抑えるか、医薬品費をどう適正化するかだけではなく、本当に患者や国民に必要な医薬品をきちんと供給していくこともフォーミュラリーの考え方になる」と強調した。