静かでリラックスした状態で脳全体の活動を母子ともに同時測定
金沢大学は10月11日、世界で唯一金沢に設置されている、親子同時測定が可能な脳磁計を活用し、自閉スペクトラム症幼児と母親が見つめ合う時、脳で起きる現象を発見したと発表した。この研究は、同大学子どものこころの発達研究センターの三邉義雄センター長らの研究グループが、大阪大学大学院工学研究科の浅田稔教授らと協力して行ったもの。研究成果は、米国の科学雑誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載された。
画像はリリースより
親と子どもが見つめ合っている間、無意識の間にも、膨大な量の社会的な情報のやり取りがなされている。すなわち、相手の表情を理解し、新たに感情が生まれ、そしてそれが自らの表情に表れ、相手に影響を与えるという双方向性の情報交換が絶え間なく続いている。親子が見つめ合っている間の双方向性の交流は、子どもの社会性の成長において、とても重要な役割を果たしていると考えられている。
しかし、これまで親子が見つめ合っているときの脳の活動についてはよく調べられていなかった。理由は、幼児の脳機能を測定することが困難なうえに、母子が見つめ合っている状態で脳機能を精度よく同時に測定するシステムを構築することが困難だったからだ。
2014年に金沢大学が大阪大学と共同で開発した親子同時MEG(脳磁計)測定システムは、親子が見つめ合った状態で、非侵襲的に測定できるシステムで、静かでリラックスした状態で脳全体の活動を母子ともに同時に測定することを可能にした。今回は、その装置を用いた世界で初めての医学研究報告となる。
子どもの脳の社会性の発達を解明するひとつのステップに
今回、研究グループは、4歳から7歳の自閉スペクトラム症幼児13人とその母親13人を対象に、幼児用MEGを搭載した親子同時MEG計測システムを用いて、母子が見つめ合っている間の脳の神経活動を記録した(うち、母子ともに脳の反応を測定できたのは8組)。その結果、母子が見つめ合っているときに生じる特別な脳の反応(ミューサプレッション)が自閉スペクトラム症幼児の症状が重い場合に、より低下していることを発見した。自閉スペクトラム症幼児の反応が弱い場合には、母親のこの反応も弱いことを発見したとしている。
また、この脳の反応が強い母子間の頭部の運動パターンを分析すると、見つめ合い中の母親の頭の動きが、子どもの頭の動きに追随するようなパターンが多いことを発見した。このことは、母子間の見つめ合い中に起きる脳の反応には、自閉スペクトラム症の特徴が反映されること、そして母子間の関係性も反映されていることを示している。なお、この研究は、親の関わり方が自閉スペクトラム症の原因になっていることを示しているわけではない。
今回、親子が見つめ合う状態で脳機能を同時測定できたことにより、子どもの社会脳の発達を解明するひとつのステップになると期待されている。
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