ニューロンの位置を皮質層レベルで正確に同定する手法を開発
順天堂大学は10月7日、視覚情報を想起する際の大脳情報処理機構を皮質層レベルで解析する方法を開発し、側頭葉において皮質層ごとに異なる情報処理を担っていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学大学院医学研究科老人性疾患病態・治療研究センターの竹田真己特任准教授ら、東京大学小谷野賢治研究員らの共同研究グループによるもの。研究成果は「Neuron」オンライン版に10月6日付けで掲載されている。
画像はリリースより
大脳は6層の皮質層で構成される神経回路により情報処理を行うことが知られているが、この神経回路の動作原理は、皮質4層から浅層である2、3層さらに深層である5、6層へ情報が伝達されることで、より複雑な情報処理を行う標準的神経回路モデルが提唱されてきた。しかし、記憶の情報処理においては、中心的な役割を果たす側頭葉36野は脳の深部に位置しているため、脳の表層に位置する初期感覚野の研究で用いられる記録部位同定法が適用できなかった。
同研究グループは、サルに対連合記憶課題を課し、課題遂行中のサル側頭葉36野のニューロン活動を計測。高磁場磁気共鳴画像法(MRI)により記録電極先端位置を画像化し、対応する組織画像上に電極先端位置を再構成することで、計測したニューロンの皮質内位置を各皮質層単位で同定した。この同定法は、各皮質の位置と働きをマッピングできる世界初の方法となる。
記憶障害に対する診断・治療法の確立へ
解析の結果、皮質浅層(2、3層)のニューロン活動は対図形よりも手がかり図形の情報を処理していることが明らかになった一方、皮質深層の5層のニューロン活動は手がかり図形と対図形の両方の情報を同程度処理し、6層のニューロン活動は対図形の情報をより多く処理していた。また、5層ニューロンは6層ニューロンに比べて、より早いタイミングで情報を処理し始めることが分かったという。さらに、深層ニューロンのニューロン活動は2つのグループに分類でき、記憶想起中に対図形の情報をより多く処理するニューロングループは、周囲のニューロン群の協調的活動(局所フィールド電位)と同期して活動していることも明らかとなった。
今回の結果は、側頭葉における記憶想起の情報処理において、従来初期感覚野などで明らかにされてきた標準的な情報伝達と同様に、浅層から深層への情報伝達が重要な働きを担っていることを示すもの。深層5層において、入力情報(手がかり図形)とは異なる想起情報(対図形)の処理が行われることは、初期感覚野の神経回路と異なる新たなメカニズムが側頭葉の記憶神経回路に備わっていることを示す。この研究成果により、記憶想起に関わる大脳ネットワークの動作原理の解明につながると考えられ、また脳損傷などによってこの神経回路が損なわれることにより起きる記憶障害に対する診断・治療法の開発に貢献することが期待されると、研究グループは述べている。
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・順天堂大学 プレスリリース