モンテルカストが肺炎球菌毒素による死亡を回避
順天堂大学は10月6日、肺炎球菌毒素によって死亡に至る分子メカニズムを明らかにしたと発表した。気管支喘息薬としてすでに使用されている抗ロイコトリエン受容体拮抗薬(モンテルカスト)が、肺炎球菌毒素による死亡を回避することも見出したとしている。この研究は、同大学大学院医学研究科・生化学・細胞機能制御学の横溝岳彦教授らの研究グループによるもの。研究成果は、英科学雑誌「Scientific Reports」電子版に発表された。
画像はリリースより
侵襲性肺炎球菌感染は、1年間に国内で10万人に1.15人が感染し、致命率は7.4%と高い。そのため、2013年からは5歳未満の小児、2014年10月からは65歳以上の高齢者を対象にワクチンの定期接種が行われている。肺炎球菌が産生する毒素ニューモライシンは、感染した細胞の膜を穿孔して細胞死を引き起こすことが試験管内の実験で確かめられているが、ニューモライシンによって個体が致死するメカニズムはよくわかっていなかった。
そこで、研究グループは、毒素ニューモライシンによってマウスが死亡するメカニズムを明らかにするため、肺に発現する受容体BLT2とそのリガンドである生理活性脂質12-HHTの肺保護作用について調査した。
気管支喘息治療薬のドラッグ・リポジショニングの可能性
まず、ニューモライシンをマウス気道内投与し致死率を検討したところ、12-HHTの受容体であるBLT2の欠損マウスが、短時間で死に至ることを見出した。12-HHTの産生を阻害する非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)投与によっても、ニューモライシンに対する致死率が上がることがわかった。ニューモライシンを投与されたマウスが気道抵抗上昇、血管透過性亢進などの気管支喘息様の症状を示したため、肺や肺胞洗浄液を生化学的に調べたところ、気管支喘息誘引物質であるロイコトリエンC4、D4、E4が産生されていることがわかった。そのため、モンテルカストを前投与したところ、ニューモライシンによる致死を抑制することに成功したとしている。
これらの結果から、ニューモライシンによる死亡がロイコトリエンC4、D4、E4産生を介していること、および、NSAIDsによる12-HHT産生抑制が、ニューモライシンによる死亡率を上昇させていることが明らかとなった。
ニューモライシンによるマウスの致死を抑制したモンテルカストは、すでに気管支喘息やアレルギー性鼻炎の治療薬として臨床の現場で使用されている。今回の研究成果は、致死率の高い肺炎球菌感染による肺炎の死亡を回避するために、安全性が確立している既存薬を利用できる、ドラッグ・リポジショニングの可能性を示していると、研究グループは述べている。
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・順天堂大学 プレスリリース