SNAP23遺伝子を欠損するマウスを作製、膵臓の機能を解析
大阪大学は10月3日、マウス生体内において、ホルモンの放出を調節するタンパク質SNAP23が、膵臓ランゲルハンス島のベータ細胞からのインスリン分泌を阻害していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科細胞生物学・群馬大学生体調節研究所の國井政孝助教、原田彰宏教授、北海道大学電子科学研究所の根本知己教授らの研究グループによるもの。研究成果は「The Journal of Cell Biology」に掲載された。
画像はリリースより
SNAREタンパク質のひとつであるSNAP23は、全身のさまざまな組織で発現しており、これまでの培養細胞を用いた実験結果から、さまざまな細胞においてホルモンや酵素などの分泌を促進すると考えられていたが、SNAP23が生体内においてはどのように機能するのかは明らかになっていない。研究グループは、膵臓の腺房細胞とランゲルハンス島ベータ細胞のそれぞれで特異的にSNAP23遺伝子を欠損するマウスの作製に成功し、それぞれの膵臓の機能を解析した。
その結果、腺房細胞でのSNAP23欠損マウスではアミラーゼ分泌が著しく減少したが、ベータ細胞でのSNAP23欠損マウスでは逆にインスリン分泌が2倍以上に増加することがわかった。このことから、SNAP23が腺房細胞からのアミラーゼ分泌には必須であるが、ベータ細胞からのインスリン分泌は阻害していることが示唆された。
既存の治療薬とは作用の異なる糖尿病治療薬の開発に期待
これまでに、ベータ細胞では、SNAP23よりも融合効率の高い類縁分子であるSNAP25がシンタキシン1A、VAMP2と結合してインスリン分泌を促進することが知られており、SNAP23がシンタキシン1A、VAMP2と結合してしまうことによってSNAP25による開口放出を減少させていることが示唆された。一方、腺房細胞ではSNAP25はほとんど発現していないため、SNAP23が主に開口放出を担っていると考えられるという。
さらに、研究グループは、膵臓でSNAP23の作用を抑制することによってインスリン分泌を増加させることが可能ではないかと考え、理化学研究所との共同研究により、SNAP23に結合する低分子化合物としてMF286を同定した。MF286は、マウスから取り出したベータ細胞において、インスリン分泌を増加させる効果が認められた。そのため、MF286をマウス個体の腹腔内へ投与したところ、血中のインスリン濃度が増加し、血糖値の上昇が抑えられることがわかり、MF286がマウス個体内においてもインスリン分泌を増加させることが示唆されたとしている。
今回の研究成果で、膵臓のランゲルハンス島ベータ細胞において、MF286がSNAP23を抑制することでインスリン分泌が増加することが明らかとなり、今後、これまでの治療薬とは作用が異なる、SNAP23を標的とした新しい糖尿病治療薬の開発につながる可能性が期待される。また、MF286は腺房細胞からのアミラーゼ分泌を抑制することも明らかとなったことで、異常な消化酵素の分泌による膵炎の症状を抑制する治療薬の開発にもつながる可能性があると、研究グループは述べている。
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