外来診療で食事や運動療法を行っても治療効果乏しく
株式会社キュア・アップは9月30日、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)事業において、東京大学医学部附属病院と連携して、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)治療アプリの臨床研究を開始すると発表した。
画像はリリースより
日本の成人の肥満者数(BMI≧25kg/㎡)は、男性1300万人、女性は1000万人。また、健診受診者のうち男性の約40%、女性の約20%がアルコール摂取と関連のない脂肪肝があると報告されている。食事の欧米化に伴い、脂肪肝の患者は年々増加しており、現在国内で約1000万人程度と推定される。その中でNASH患者は200万人程度存在するとされ、健康寿命に著しい影響があると考えられている。国内外における疫学研究において、NASHと診断された患者は肝硬変や肝がんのみでなく、心筋梗塞などの発生により死に至るリスクが高いことが示されている。
糖尿病の治療薬がNASH患者の肝臓の状態を一時的に改善する可能性を示した報告は過去にあるが、長期的な安全性や有効性は示されておらず、現状NASHに対する確立された薬剤による治療は存在しない。現状ガイドラインで示されている最も信頼性の高い治療法は食事や運動療法による体重減少であり、元の体重の7%の減量が具体的な目標として掲げられている。しかし、一般の外来診療の限られた時間の範囲内で食事や運動療法を行っても治療効果が乏しい場合が多く、いまだに疾患負担の軽減には至っていないのが現状だ。
肥満が原因の他の疾患の予防にもつながる可能性
NEDOは、将来のメガベンチャーの創出と日本のエコシステムの形成を目的に、シード期の研究開発型ベンチャー支援事業を実施。同支援事業において、キュア・アップは東京大学医学部附属病院のグループと共同でNASH専用の治療アプリ開発を行っている。同アプリは、外来診療の時間以外も継続して患者に応じ個別化した食事、運動、行動療法などのガイダンスを行う、NASH治療を目的としたもの。今回は、その共同開発したNASH専用の治療アプリの臨床研究を開始するという。
臨床試験では、患者が1日10分から15分程度、治療アプリを用いて自身のスマートフォンから情報を入力し、さらにアプリを経由して収集されるデータから、個別に配信される動画やテキストによる医学的なガイダンスを受け治療に取り組む。治療の効果を担当医師が外来診療時に評価するとともに、日々の治療の進捗、達成したプログラムなどについて治療アプリが収集した情報を外来診療に役立てる。
個々の患者に最適化された診療ガイダンスを外来受診時以外もアプリが継続的に行うことで、患者と医療従事者双方の負担を著しく増やすことなく効果が得られれば、NASHに対する有望な治療法になると期待される。また、患者の認知と行動の改善を通じた減量による治療が達成されれば、NASHにより生じる肝硬変や肝がんのみでなく、肥満がリスクとなり生じる他の疾患の予防にもつながり、日本の医療費削減への貢献も期待できるとしている。
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・新エネルギー・産業技術総合開発機構 ニュースリリース