罹患すると髄膜炎や脳炎、難聴といった重篤な合併症を引き起こすことも
日本医療研究開発機構(AMED)は9月27日、流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)の原因ウイルスであるムンプスウイルスがヒトに感染するために利用する受容体の構造を解明し、ウイルス糖タンパク質と結合した状態を原子レベルの分解能で可視化することに成功したと発表した。この研究は、九州大学医学研究院の栁雄介教授と橋口隆生准教授、生体防御医学研究所の神田大輔教授、薬学研究院の白石充典助教、筑波大学の竹内薫准教授、香川大学の中北愼一准教授、中部大学の鈴木康夫客員教授、北里大学北里生命科学研究所の中山哲夫特任教授、東京大学の清水謙多郎教授と寺田透特任准教授、高エネルギー加速器研究機構の清水伸隆准教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は近日中に、米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of USA」に掲載予定。
画像はリリースより
流行性耳下腺炎は、日本だけでも小児を中心に毎年数十万人が罹患する重要な全身性ウイルス感染症。臨床的特徴として2日以上持続する急性耳下腺腫脹が挙げられ、無菌性髄膜炎、感音性難聴、脳炎、精巣炎、卵巣炎、膵炎など種々の合併症を引き起こす。患者全体の1~2%が入院加療を要する髄膜炎を合併するほか、患者の0.1~1%にみられるムンプス難聴は日本で年間700~2,300人が発症していると推定されている。
ムンプスワクチン接種によっても、無菌性髄膜炎(頻度:0.01~0.1%)やムンプス脳炎(頻度:0.0004%)が低頻度ながら副反応として報告されている。現在、日本ではムンプスワクチン接種は任意接種となっているため接種率は20%以下と低く、およそ4年に一度の全国規模の流行を繰り返し、社会問題となっている。
既感染者やワクチン接種者の一部がムンプスウイルスに感染する理由も解明
共同研究グループは今回、ウイルス学的実験と構造生物学的実験、コンピュータ科学計算、生化学的実験を組み合わせて研究を行い、ムンプスウイルスがヒトに感染するために利用する受容体では単純なシアル酸ではなく、α2,3-結合型シアル酸を含む3糖(シアル酸-ガラクトース-グルコース[N-アセチルグルコサミン])構造を必要とすることを解明。受容体とウイルス糖タンパク質HNが結合した状態を原子レベルで可視化することにも成功した。受容体とウイルス糖タンパク質HNは鍵と鍵穴の関係にあることから、その詳細な結合様式が明らかになることで、阻害剤(抗ウイルス薬)の開発に大いに役立つ。
さらに、流行性耳下腺炎のワクチン接種を受けた人や感染歴がある人でもウイルスに感染してしまう現象が報告されているが、その理由のひとつとして、12種類あるムンプスウイルスの遺伝子型間で、ウイルス糖タンパク質HNのアミノ酸配列の違いが特に大きい領域に抗体ができやすいことが明らかとなった。これは、今後のワクチン改良に向けて重要な情報になるとしている。
なお、研究成果は、Protein Data Bankを通じて一般公開される。また、現在、九州大学の栁教授、橋口准教授らの研究グループにより、阻害剤探索の研究も進められている。
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・日本医療研究開発機構 プレスリリース