微小管コファクターTBCD遺伝子の変異を同定
横浜市立大学は9月23日、小児期早期発症の神経変性脳症の責任遺伝子を解明したと発表した。この研究は、同大学術院医学群の三宅紀子准教授、松本直通教授(遺伝学教室)ら研究グループと、東京大学の三浦正幸教授、広島大学の千原崇裕教授、新潟大学の柿田明美教授、清水宏助教らとの共同研究によるもの。同研究成果は、米科学雑誌「American Journal of Human Genetics」に9月22日付けで掲載されている。
画像はリリースより
微小管は、αチューブリンとβチューブリンの二量体が積み重なることで構成される筒状の構造物で、細胞の分裂、形態、極性、移動、細胞内輸送など細胞機能に重要な役割を果たす。微小管を構成するα/βチューブリン二量体の形成には、tubulin folding co-factorと呼ばれる5つのシャペロン分子(TBCA、TBCB、TBCC、TBCD、TBCE)が知られており、このうちTBCD遺伝子の異常についてはヒト疾患との関連が報告されていたが、それ以外の遺伝子とヒト疾患の報告はなかった。
研究グループは、小児期早期(1歳未満)に発症し、中枢神経系が進行性に変性する新しい臨床像を呈する4家系8症例を対象に、全エキソーム解析を用いて遺伝子変異探索を実施。その結果、全8症例にTBCD遺伝子の劣性変異(複合ヘテロ接合性変異またはホモ接合性変異)を同定したという。
TBCD遺伝子変異から生じる疾病病態も解明
TBCD変異を有する症例には、進行性の脳萎縮、退行、小頭症、成長障害、筋力低下・萎縮、呼吸障害が認められた。筋生検で得られた組織の解析からは、筋肉の未熟性が示唆されたという。また、剖検例の脳組織学的検索によって、少なくとも小脳の歯状核、脳幹および脊髄前角での下位運動神経核の消失と、小脳のプルキンエ細胞の変性所見が観察され、TBCD変異に起因する変化と考えられた。後者はミトコンドリア異常症で観察される所見であり、微小管が細胞内ミトコンドリア輸送に関わっていることから、TBCDの異常が細胞内ミトコンドリア輸送を障害している可能性が示唆された。
同解析では、ミスセンス変異5つ、ナンセンス変異1つ、スプライス部位の異常によるフレームシフト変異1つの計7変異を同定。それぞれの変異の影響について、TBCDと結合することが知られているTBCE、ARL2、βチューブリンとの結合能を免疫沈降で調べたところ、ほとんどの変異体においてTBCDとの結合能が低下していたことから、今回の変異が機能喪失型変異であることを証明した。さらに、ショウジョウバエのtbcd1変異体では、神経軸索が短縮したり正常の分岐が少なくなったりすることが知られていたが、ヒトTBCDを用いたレスキュー実験により、野生型の遺伝子を導入するとそれらの異常形態が改善。これに対し、患者に認められた変異体では、遺伝子導入による回復がほとんどないことがわかったという。
今回、新たな疾患遺伝子が解明されたことで、小児期発症神経変性脳症の病態解明と、治療法の開発への大きな寄与が期待されると、研究グループは述べている。
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・横浜市立大学 研究成果