■今月末からプログラムに参画
武田薬品は、IT技術を活用して健康や医療分野で新産業を生み出す「デジタルヘルス」にオープンイノベーション等を通じて本格参入する。今月末から異業種企業と手を組み、国内のベンチャー企業、大学・研究所が保有するアイデアや技術をもとに事業化につなげる目的で、2件のオープンイノベーションプログラムに参画する。ヘルスケアで使えるサービス、あらゆるモノがインターネットにつながるIoT、人工知能など幅広いテーマを扱う。年内に技術の発掘からビジネスモデルの構築、今後は新技術・新サービスを検証するためのプロトタイプを開発し、事業化へとつなげることも検討したいとしている。新薬開発で外部資源を活用したオープンイノベーション戦略を標榜する武田だが、デジタルヘルス分野でも複数の異業種企業と連携を進めている。
デジタルヘルスは、医療・介護・製薬分野でデジタル技術を導入し、医療の質向上や効率化、診断、疾病予防、健康増進に役立てるアプローチやサービス、製品を指し、ITの技術革新により様々な業界で旧来の構造を打ち破る破壊的イノベーションが生まれており、製薬業界にも波及しつつある。こうした背景から武田も参入に踏み切った。
デジタルヘルスの産業化に向けては、製薬企業が1社単独で新薬を開発・事業化していくビジネスモデルではなく、早期開発段階から多様な異業種企業と連携し、製薬企業でこれまで活用されてこなかったデジタル技術や事業アイデアを出発点に、あらゆる角度でベンチャーや大学・研究所の事業化を検討するオープンイノベーションの枠組みが求められている。
今回、武田は、大学・研究所の技術を起点としたものと、ベンチャーと企業の連携から事業化を目指す二つのオープンイノベーションプログラムに参画する。大学・研究所の技術をもとに事業化を目指すプログラムでは、4~5社の大企業がパートナーに名を連ね、製薬業界から武田が参画。資金提供するベンチャーキャピタルが中心となって、ユニークな研究を行う大学教授に参加を呼びかけ、技術を発掘する。国の研究機関も参加予定にある。
ベンチャー向けのプログラムでは、外資系大手IT企業が運営会社となり、パートナーには武田を含めて4社が参加する。ベンチャーからは20社程度の参加が見込まれている。
デジタルヘルスのオープンイノベーションは同社では初の試みとなるため、初回は医療分野に応用できそうなベンチャー・大学の技術を幅広く対象とする。プログラムは、技術の発掘からビジネスモデルの構築、実証実験、事業化まで、わずか9カ月間と短期で設定。通常、製薬企業の新薬開発は、1品目で10~20年の長期プロジェクトとなるが、短期間でできるだけ多くのプロジェクトを試し、実証実験で事業化を検討するIT業界特有のスピード感を重視したプログラムを展開する。第2回のプログラムは、状況に応じて内容を検討する方針だが、テーマを初回より深掘りしたい考え。今後も定期的に新たなプログラムを走らせる計画だ。
武田は、デジタルヘルスに多くの事業機会があるとして、数年前から海外で先行して事業化に取り組み、国内では昨年から本格的に着手。現在、創薬、開発、営業、マーケティング、製造、財務と全分野で部門横断的なデジタル化を推進しており、デジタル技術を活用し新たな事業アイデアを生み出す企業文化の醸成に向け、社員向けの教育にも力を入れ、事業アイデアの公募もスタートした。
事業アイデアの公募から生まれた有望なアイデアには、予算を付けてプロジェクト化し、そこで質の高い試作品が作製できれば、事業化への道を開くスタートアッププログラムも始めた。既に上市医薬品、開発薬剤を対象とした複数のプロジェクトを実施中。社内対象のプログラムも、外部連携プログラムに統合させる方向で、さらにオープンイノベーションを加速していく。
同社のタケダデジタルアクセラレーター・ジャパンヘッドの大塚勝氏は、「デジタルヘルスは実証実験段階にあり、まずは結果より経験値を積むことが重要。異業種のテクノロジー業界と一緒に、デジタルヘルス産業を作っていきたい」と話している。