2種類の最新プロテオミクス技術を用いて、多数の臨床検体を解析
熊本大学は9月21日、全国の多施設共同研究で集積した血液検体を用いて、早期膵臓がん患者の血中タンパク質のうちinsulin-like growth factor-binding protein(IGFBP)2およびIGFBP3の量が変化しており、従来の膵臓がんバイオマーカーであるCarbohydrate antigen 19-9(CA19-9)と組み合わせることで、これまで難しかった早期膵臓がん患者の診断が可能であることを明らかにしたと発表した。
画像はリリースより
この研究は、同大学大学院生命科学研究部微生物薬学分野の大槻純男教授、東北大学大学院薬学研究科薬物送達学分野の寺崎哲也教授、国立がん研究センター創薬臨床研究分野の本田一文ユニット長らの研究グループによるもの。同研究の成果は、「PLoS ONE」に8月31日付けで掲載されている。
膵臓がんは、早期では自覚症状が少なく、進行してから発見されることが多いこともあり、他のがんに比べて極めて予後不良ながんのひとつ。膵臓がんの予後を改善するためには、血液検査によって早期膵臓がんや膵臓がんのリスク疾患(膵管内乳頭粘液性腫瘍など)を診断する方法の開発が重要となる。そこで同研究では、膵臓がん組織中で正常膵管に比べて活性が高いと報告がある遺伝子に対応するタンパク質を膵臓がん診断マーカー候補とし、2種類の最新プロテオミクス技術(タンパク質の大規模な解析技術)を用いて、膵臓がん患者の血中におけるそれら候補タンパク質の量の変化を健常者と比較、多数の臨床検体を用いて解析を行った。
早期発見を実現し、予後の改善に寄与
膵臓がん組織での活性化が報告されている260個の遺伝子のうち、生物学的機能が明らかで、抗体が手に入る130個のタンパク質について、抗体プロテオミクスの一種である「逆相タンパク質アレイ」によって、健常者および膵臓がん患者の血液を用いて比較した。その結果、23個のタンパク質が膵臓がん患者の血中で顕著に変化していることを見出した。
これらの膵臓がんバイオマーカー候補を精度よく評価するために、質量分析装置を用いたプロテオミクスによる解析を実施。この際、数多くの臨床検体を効率的に解析するため、自動前処理ロボット、高耐圧液体クロマトグラフィーおよび自動解析ソフトを用いた技術を独自に開発。従来のシステムでは1週間に80サンプル程度の解析しかできなかったが、開発したシステムでは1週間におよそ1,000サンプルを精度よく解析することができるという。
同技術を用いて健常者および早期膵臓がん患者の血中のタンパク質を比較した結果、IGFBP2およびそのファミリーであるIGFBP3の量が、膵臓がん患者で変化していることを明らかにした。また、既存のマーカーであるCA19-9に陰性を示す早期膵臓がん患者15例中、IGFBP2、IGFBP3では12例(80%)を診断でき、CA19-9では検出できなかった早期患者のがんの検出実現も期待される。
同研究の成果は、膵臓がんの早期発見を実現し、予後の改善に貢献することが期待できるだけでなく、IGFBP2、IGFBP3のみの検査であれば1滴の血液から診断することが可能なことから、検査による被験者の負担を軽減できる可能性も示唆された、と研究グループは述べている。
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