自閉スペクトラム症の幼児期、研究困難で検討されず
金沢大学は9月14日、国内唯一の「幼児用脳磁計(Magnetoencephalography:MEG)」を活用した自閉スペクトラム症児の脳機能研究を推進し、自閉スペクトラム症児においては、視覚野に相当する後頭部と前頭部の間で、ガンマ帯域を介した脳機能結合が強いと視覚性課題の遂行力が高いことを発見したと発表した。
画像はリリースより
この研究は、同大学子どものこころの発達研究センターの三邉義雄センター長(医薬保健研究域医学系教授)、菊知充教授らの研究グループが、モントリオール大学との共同研究プロジェクトで行ったもの。研究成果は、米科学雑誌「The journal PLOS ONE」オンライン版に9月15日付けで掲載されている。
自閉スペクトラム症者のなかには、視覚性の問題を解く能力が優れた人がいる。これまでも、モントリオール大学のローレン・モトロン教授らは、成人の自閉スペクトラム症者においては、脳の視覚野が視覚性類推課題で重要な役割を担っていることを明らかにしてきた。しかし、自閉スペクトラム症の幼児期については、研究が困難なため検討されたことがなかったとしている。
後頭部と他の領域間で脳機能結合が強いと視覚性課題の遂行力高く
MEGとは、超伝導センサー技術(SQUID磁束計)を用いて、脳の微弱磁場を頭皮上から体に全く害のない方法で計測、解析する装置である脳磁計を、幼児用として特別に2008年に開発したもの。幼児用MEGでは、超伝導センサーを幼児の頭のサイズに合わせ、頭全体をカバーするように配置することで、高感度で神経の活動を記録することが可能になった。現在、日本では1台のみ存在している。
MEGは、神経の電気的な活動を直接捉えることが可能であり、その高い時間分解能(ミリ秒単位)と高い空間分解能において優れているため、脳のネットワークを評価する方法として期待されている。さらに、MEGは放射線を用いたりせず、狭い空間に入る必要もないことから、幼児期の脳機能検査として存在意義が高まっている。
今回、研究グループは、ローレン・モトロン教授との共同研究で幼児用MEGを用いて、健常児18人と自閉スペクトラム症児18人を対象とし、視覚野からの脳機能的結合と、視覚性の課題の遂行能力との関係について調査した。その結果、視覚野に相当する後頭部と他の領域間で、ガンマ帯域を介した脳機能結合が強いと、自閉スペクトラム症児においては視覚性課題(視空間課題および視覚性類推課題)の遂行力が高いことが分かった。ガンマ帯域はボトムアップ処理を反映していると考えられることを踏まえると、自閉スペクトラム症児においては、視覚野からのボトムアップ情報処理が促進されている場合に、視覚情報処理の長所が発揮されていることが分かったとしている。
この成果は、視覚性類推課題についての自閉スペクトラム症児の頭の働き方の特徴をとらえることができた世界で初めての報告。子どもの脳の個性を「見える化」するひとつのステップになると、研究グループは期待を寄せている。
▼関連リンク
・金沢大学 ニュースリリース