脂肪酸の細胞内局在を可視化、脂質代謝変動を明らかに
国立国際医療研究センターは9月15日、脂肪酸に一元素ラベルを行い、これを取り込ませた細胞を走査型蛍光X線顕微鏡システムによって可視化する方法を開発したと発表した。これは、細胞内脂質の高分解イメージングを実現する初の方法だ。
画像はリリースより
この研究は、同センター研究所難治性疾患研究部難治性疾患研究室の志村まり室長、脂質シグナリングプロジェクトの進藤英雄副プロジェクト長の研究グループが、東京大学大学院、フランス国立科学研究所(CNRS)、大阪大学大学院、理化学研究所、早稲田大学らと共同で行ったもの。同研究結果は、米科学誌「The FASEB Journal」に掲載されている。
脂肪酸代謝異常は、疾病と関連が深く、多くの生化学的研究報告が行われている。一方、細胞内脂質イメージングについては、脂肪酸という小分子に標識する難しさのため、その実現は困難とされていた。また、非標識による質量分析顕微鏡やラマン顕微鏡での細胞観察は有用だが、一細胞やオルガネラレベルでの観察は困難だった。
多様な生命現象や疾患に関わる研究が展開する可能性
研究グループは、脂肪酸に一元素ラベルを行い、これを取り込ませた細胞を走査型蛍光X線顕微鏡システム(SXFM、大型放射光施設SPring-8のX線を使用)によって可視化する方法を開発した。
同研究で用いたマウス由来CHO-K1細胞では、ラベル元素シグナルは細胞核周囲に認められ、小胞体やゴルジ体と類似した分布を示している。これは、細胞内脂質を合成する酵素が多い箇所でもあり、この箇所に脂質が多く見られることは推測していた結果でもあるという。
実験経過においては、主な細胞毒性は認められず、また、生化学的な検討から、細胞内に取り込まれた元素ラベル脂肪酸は概ねリン脂質に代謝されていることが明らかになった。これらの結果から、得られた元素分布像は細胞内ラベルリン脂質を主に観察していると考えられるという。
一方、250ナノメーター程度の分解能で、細胞質に存在する直径約1ミクロンのドット状臭素局在を、世界で初めて可視化することにも成功。SXFMは直径1ミクロン以下のドット状のラベル脂質構造体を可視化することで、オルガネラレベルの分解能を提供する。この構造体の解明は、今後の研究課題になるとしている。
今回の研究で開発した世界初の細胞脂質高分解イメージングの技術を用いることで、今後、さまざまな脂肪酸に一元素ラベルを行い、細胞内局在を可視化することで、オルガネラレベルでの脂質分布や変動を明らかにできるという。また、同システムより、多様な生命現象や、炎症、血管障害、神経疾患を始めとする多くの疾患に関わる研究が展開することに期待が寄せられる、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・国立国際医療研究センター プレスリリース