うつ病患者では視床のNAT密度が高いことが明らかに
量子化学技術研究開発機構は9月16日、うつ病患者は視床のノルアドレナリン神経伝達機能に異常が生じており、これが注意・覚醒機能の高まりと相関していることを見出したと発表した。この研究は、量研機構放射線医学総合研究所脳機能イメージング研究部と慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室との共同研究によるもの。研究成果は「The American Journal of Psychiatry」オンライン版に9月16日付けで掲載されている。
画像はリリースより
これまで、抗うつ薬の作用メカニズムに関する研究やうつ病患者の死後脳研究、うつ病のモデル動物の研究により、うつ病の原因のひとつとして脳内の神経伝達物質であるノルアドレナリンの関与が示唆されてきたが、ノルアドレナリン神経伝達にどのような変化が起きているかは不明だった。
そこで研究グループは、自分を責める傾向が強く、不眠や食欲低下などの症状を認めるうつ病患者19人、健常者19人を対象に、脳内のノルアドレナリントランスポーター(NAT)に結合する(S,S)-[18F]FMeNER-D2という薬剤を用いてPET計測を行い、脳内の視床のNATの密度の指標となる結合能を定量した。患者と健常者でこれらの定量値を比較したところ、患者の視床のNAT密度が健常者よりも29%高いことが判明(p=0.007)。さらに、視床内部を機能的に異なる7つの領域に分割して、それぞれの領域のNATの密度を定量した結果、前頭葉と線維連絡を持つ領域において、患者のNAT密度が28.2%高いことが明らかになったとしている(p=0.002)。
うつ病治療で効果的な抗うつ薬選択につながる期待
次に、患者のNAT密度と注意機能との関連を検討するために注意機能検査を実施し、患者のNAT密度と注意機能との相関解析を行った結果、視覚性注意を調べる検査において、患者の視床のNAT密度が高いほど、反応時間が速く、視覚的探索機能が高いことが明らかになった(視床:偏相関係数r=-0.70、p=0.003)。今回の研究によって、自分を責める傾向が強く、不眠や食欲低下などの症状を認めるうつ病患者においては注意・覚醒機能はむしろ高まっており、その変化とNAT密度との間に相関があることが明らかとなった。
これらの研究成果は、自分を責める傾向が強く、不眠や食欲低下の強いうつ病患者の治療では、ノルアドレナリン神経伝達機能の調整が有効であることを示している。今後、多様な症状が現れるうつ病の治療において、脳内の異常を想定した効果的な抗うつ薬の選択と治療戦略につながることが期待されると、同研究グループは述べている。
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