Metに結合し、生物学的活性を引き起こすHGF
東北大学は9月12日、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療やがんの進行とも深く関わりのある肝細胞増殖因子(HGF)に対するモノクローナル抗体を作製することに成功したと発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科の加藤幸成教授らの研究グループが、大阪大学蛋白質研究所の高木淳一教授らおよび金沢大学がん進展制御研究所の松本邦夫教授らの研究グループと共同で行ったもの。研究成果は、英科学誌「Scientific Reports」に9月9日付けで掲載されている。
画像はリリースより
HGFは日本で発見されたタンパク質で、その受容体であるMetに結合することで、細胞の増殖や生存促進、遊走といった生物学的活性を引き起こす。運動神経の生存を促す作用があることから、HGFによるALSの治療を目的とした臨床試験が進められている。一方、Met受容体の異常な活性化はがんの進行に関わっており、Metを標的とした阻害剤やHGFとMetの結合を阻害する抗体医薬品の開発が進められている。
HGFは、最初活性のない一本鎖の前駆体タンパク質として細胞から分泌され、その後、タンパク質分解酵素による切断を受けて二本鎖の活性を持つ成熟型となる。一本鎖の前駆体HGF、二本鎖の成熟型HGF、両者はともにMet受容体(鍵穴)に結合するにもかかわらず、受容体を活性化できるのは二本鎖成熟型HGFのみ。一本鎖前駆体HGFが二本鎖への切断によってどのような構造変化が生じ、Metを活性化するのか不明のままだった。
新規の抗体医薬品の開発に期待
この問題を解明するために、研究グループは、はじめにHGFの切断部位を人為的な切断配列に変えることで、未切断型(前駆体)および切断型(成熟型)両方のHGFタンパク質を産生した。さらに、これらのHGFタンパク質を用いて結合部位や活性阻害効果の異なる抗HGFモノクローナル抗体を6種類樹立し、HGF前駆体と成熟型HGFの構造の違いを見分ける抗体(t8E4)やMetの活性化を強く阻害する抗体(t1E4)を作製することに成功したとしている。
今後、これらの抗体を利用したHGF構造解析を通して、HGFの構造変化と受容体Metへの結合を介したシグナリングの分子メカニズムについてのさらなる理解が進み、新規の抗体医薬品の開発などに貢献することが期待されると、研究グループは述べている。
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・東北大学 プレスリリース