クロマチンリモデリング因子という一群のたんぱく質の一種に着目
九州大学は9月8日、ヒトの自閉症患者で最も変異が多いCHD8という染色体構造を変化させる作用を持つクロマチンリモデリング因子という一群のたんぱく質の一種に着目し、ヒト患者と同じような変異をマウスに起こすと、コミュニケーション異常や固執傾向が強まるなど、ヒトの自閉症とよく似た症状を呈することを見出したと発表した。この研究は、同大学生体防御医学研究所の中山敬一主幹教授、西山正章助教らの研究グループによるもの。研究成果は「Nature」に9月7日付けで掲載されている。
画像はリリースより
自閉症やADHD、LDなどの精神疾患である発達障害は近年、大きな社会問題となっている。自閉症は他人の気持ちが理解できないなどといった社会的相互作用(コミュニケーション)の障害や、決まった手順を踏むことへの強いこだわり(固執傾向)、反復・限定された行動などを特徴とする障害で、全人口の2%が発症すると言われている。
近年の遺伝子解析技術の発展に伴って、自閉症患者を対象とした大規模な遺伝子検査が行われ、多くの遺伝子変異が同定された中で、CHD8が自閉症患者のうち最も変異率が高かったことから、自閉症の有力な原因候補遺伝子とされている。CHD8は、染色体構造を変化させるクロマチンリモデリング因子というたんぱく質の一種で、CHD8はそのクロマチンリモデリング活性によって、さまざまな遺伝子の発現を調節することが知られている。
CHD8半欠損マウスを作製、その行動を詳細解析
ヒト自閉症患者で発見された変異の多くは、半欠損(正常では2つあるCHD8の遺伝子の1つが欠損すること)であったため、研究グループは、人工的にCHD8を半欠損させたマウスを作製し、その行動を詳細に解析した。その結果、CHD8半欠損マウスにおいて神経発達に重要なたんぱく質であるRESTの活性が顕著に上昇し、神経発達が障害されていることがわかった。
今回の研究成果により、CHD8は神経発達に重要なたんぱく質であるRESTの活性を抑えることによって、神経発達を調節していることが考えられる。CHD8の量が減少する結果、RESTが異常に活性化していることが明らかとなり、これが発達異常を引き起こしている可能性が高いとしている。これはCHD8を人工的に上昇させるか、RESTを抑えるかのいずれかで自閉症が治療できる可能性を示すものとなる。
今後はこのモデルマウスを用いて、自閉症の詳細な発症メカニズムを解明するとともに、自閉症に効果のある薬剤の探索を行うことで、治療への応用を目指していきたいと、研究グループは述べている。
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