■PMSからの脱却が大命題
北里大学大学院薬学研究科の成川衛教授は、薬事日報のインタビューに応じ、製薬企業が承認申請時に医薬品医療機器総合機構(PMDA)へと提出する「医薬品リスク管理計画」(RMP)について、「定型的な内容が多く、まだ確立できていない印象がある」と施行後3年半が経過した同制度だが、試行錯誤が続いているとの認識を示した。製造販売後調査(PMS)を代替する手法として医療データベース(DB)を用いた医薬品のリスクベネフィット研究についても、「データベースを使わない疫学研究もできる」と企業が知恵を絞るべきと主張。製薬企業が投資に及び腰の安全性管理だが、「上市後の安全性、有効性のエビデンス収集を通じて、薬剤が経済的に評価されるようになれば、企業のやる気が出てくる」と期待感を示した。
製薬企業が承認申請する新薬等については、申請時にRMP案を作成・提出することが義務づけられ、販売開始前までに公表することになっている。それまではPMSを通じて医薬品の安全性を評価する受け身型だった。今後は、副作用の早期発見・対応に向けて、薬剤や疾患に応じてリスクベネフィット評価のやり方を考える企業主導の新たなアプローチが求められているが、まだ目指すべき姿に追いついていない状況にある。
成川氏も「企業はPMSにびっくりしたような額をつぎこんでいるが、それに見合う情報が得られているのか、薬剤の安全性が高まっているかどうかを効率性の面から議論していかなくてはならない」と述べ、市販後安全性活動のコストとベネフィットの評価を行うための研究に着手していく時期に入ったとの見方を示す。
その上で、「臨床研究の法制化がブレークスルーになる可能性がある」と指摘。法制化により実施に当たって厳格な要件が求められることから、臨床研究の実施件数が減るとの懸念もある。しかし成川氏は、「ICH-GCP規制の導入により、日本で実施された年間1500本の臨床試験が500程度に落ち込んだことがあったが、必要性の高い本来の目的に合った治験が残っていい方向に進んだ」との効用を挙げ、ルールを遵守し手続きを踏んだアカデミック研究から、薬剤のリスクベネフィット評価が行われ、薬剤の真の価値が創出される環境醸成を期待する。
そんな中、注目されているのが医療DBを用いた医薬品のリスク監視だ。患者の医療記録を集積したDBを解析し、そこから新たな検討すべき研究課題を導き、薬剤の潜在的な安全性検討事項として検討する。PMDAが2018年度に本格稼働する「MID-NET」のように国主導で情報基盤整備も進んできた。
成川氏は、「ITベンダーが増えて利用できるDBが増えているのはいいこと」としつつも、「DBがあれば、これまで収集できなかった安全性エビデンスを簡単に収集できると思うのは危険。そこに過大な期待を持つことはやめるべき」との考えを示す。その一方で、海外に比べ研究に利用できる医療DBが少ないとの声に対しては、「DBを活用しなくても対照群を置いた比較研究は行える」とし、例えば患者を登録し、薬剤投与患者と非投与患者について特定イベントだけを長期に追跡する観察研究など、「今の環境下でも企業ができることは十分にある」と述べた。
さらに、医療従事者や患者へのリスクコミュニケーションという課題に対しては、薬剤適正使用のための資材の見直しに言及。「企業が作成する医療従事者用または患者用資材は膨大な数で、中身を見るとRMP用とプロモーション用、どちらか分からないものが混在している。よくできたRMPの資材もあれば、正直、情報を盛り込みすぎて伝わりづらいものもある」と述べ、コストとパフォーマンスから検討すべきとした。「一つひとつの資材によって医療従事者の理解は上がっているのか、そもそも患者にその資材が届けられているのか、見える化と最適化を考えることが大事ではないか」と強調した。
日本でも世界初の作用機序薬剤などが相次いで登場し、医療経済評価の試行的導入も始まった。成川氏は「現段階では市販後の安全性エビデンスによって、薬価上昇に結びつくのは難しいかもしれないが、そこでいい評価が出て、経済的に価値が認められる製品が出てきてほしい。それによって企業のやる気が出てくる」と成功事例に期待する。