失った手足を仮想現実で動かすことで痛みが和らぐ
東京大学は9月6日、手足などの切断や神経障害の後に存在しないはずの手足で感じる難治性の痛み(幻肢痛)について、仮想現実(バーチャルリアリティー)システムを用いて幻肢を自分の意思で動かしているような錯覚を繰り返すことで、幻肢痛が和らぐことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部属病院緩和ケア診療部の住谷昌彦准教授らの研究グループによるもの。研究成果は「European Journal of Pain」オンライン版に7月5日付けで掲載されている。
画像はリリースより
手足の切断後や神経障害によって感覚を失われたにも関わらず、手足とその感覚が存在するように感じられ、その幻肢が痛む現象を「幻肢痛」という。実際に手足を失っても脳内で幻肢を動かすイメージ(運動表象)を作ることができる人もいるが、多くの場合はこのイメージを作ることができず、幻肢痛が生じると考えられている。
神経障害性疼痛の痛みの原因の解明につながる可能性
研究グループは、肢をあたかも自らの意思で動かしていると錯覚するバーチャルリアリティーシステムを用いて、幻肢痛が改善されるか否かを検証。この検証に先立って、脳内で幻肢の運動表象が作られる度合いを両手干渉課題と呼ばれる方法により評価した。その結果、バーチャルリアリティーシステムを用いると、患者の幻肢痛が和らぐだけでなく、幻肢の運動表象と痛みの改善に有意な相関関係がみつかったという。
今回開発されたバーチャルリアリティーシステムは、人の動きを記録することのできるモーションキャプチャで得た痛みのない方の手足(健肢)が運動している様子を左右反転させた映像をリアルタイムにヘッドマウントディスプレイへ映し出すもの。患者はゴーグルのようなヘッドマウントディスプレイをかぶり、映し出された映像を見ながら健肢を動かすことによって、自らの意志で幻肢を動かしているような仮想体験をすることができるという。
この成果は、幻肢痛や腕神経叢引き抜き損傷後疼痛だけでなく、脊髄損傷後疼痛や視床痛など運動麻痺を伴う神経障害性疼痛患者の痛みの原因の解明と、新しい治療法の開発につながる、と研究グループは述べている。
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・東京大学 プレスリリース