■社会保障全体での議論必要に
6月に就任した日本製薬団体連合会の多田正世会長(大日本住友製薬社長)は、高額薬剤の薬価をめぐって10月にも厚生労働省が緊急対応案を出す方針に対し、「イノベーションを評価せずに、ただ価格が高いからといって薬価を下げるのは、産業活性化の面から見ても明らかな問題」と強く批判した。薬価の抜本的改革は、「10年後を睨んだ議論が必要であり、早急に結論を出すべきではない」と牽制。今後の議論に向けては、薬価だけではなく、介護や年金を含めバランスが取れた社会保障制度を検討する必要性を挙げ、「製薬業界からも意見が出せるような国民的議論をする場をいただきたい」と、産業政策と薬価を一体化して検討すべきとした。
多田氏は、「医薬品の世界は、治療満足度が低い疾患領域で新薬が生み出された後に、それがGE薬、OTC薬として用いられ、最後は基礎的医薬品となる。日本では、その起点となる新薬を生み出す環境が揺らいできているのではないかと感じている」と指摘した。
その矛先が高額薬剤問題。厚労省が薬価に関する緊急対応をまとめる方針を提示していることについて、「高額薬剤が全ておかしいという議論になっているが、イノベーションの評価が高いからこそ、高い薬価がついている。革新的な新薬があるからGE薬があるわけで、高いからといって薬価を下げては、どこが革新的新薬を開発すると思うのか。産業の根幹を揺るがすといっても過言ではない」と反対姿勢を強調した。
さらに、「製薬企業が値段を決めているわけではないのに、高額薬剤で製薬企業が批判されるのはとんでもない話だ」と述べ、4月の薬価制度改革で売れすぎた医薬品の薬価を大きく引き下げる特例拡大再算定制度と同様、「われわれが知らないところで物事が決定している」と不満をあらわにし、国が掲げる製薬産業の成長戦略との矛盾を指摘した。
中央社会保険医療協議会薬価専門部会では、高額薬剤薬価の期中改定に加え、類似薬効比較方式、原価計算方式で算定する現行の薬価制度全般の見直しを求める意見が上がっている。多田氏は、「薬価制度は、医師や患者、支払側も納得して出来上がった制度であり、歴史と英知が結集され、変えるところがあれば、30年間手直ししてやってきた。よくできた制度だと思っているし、基本的には現行制度を尊重すべき」との考えを示した。
薬価の抜本的改革を行う時期については、「製薬企業の経営的観点から10年先を睨んで、時間をかけた改革であるべき。医薬品制度のあり方から考える必要があり、早急にやるべき話ではない」とした。
国民皆保険を維持するためには、薬価だけではなく幅広い観点からの議論の必要性にも言及。「薬価だけではなく、介護や年金の三つを社会保障制度で国民の視点でどうバランスを取っていけばいいのかという出発点から議論しないといけない」と述べた。その上で、「現行の制度・システムでは、製薬企業が意見を言える立場になっていない。関係各省が参加する官民対話の場を設けていただけるのはありがたいが、財務省が入っていない。国民的議論の場をいただきたい」と、薬価と産業政策をセットにした議論の場を求めた。
一方、国が策定中の高額薬剤の最適使用推進指針については、「薬剤が厳密に使われることで誤使用による薬害を減らすことができる。製薬業界にとっては違和感はない」と賛同する考えを明らかにし、「患者のアクセスが不必要に制限されることがないようにしていただきたい」と“患者視点”が重要とした。