抗がん剤1滴ほどの量で治療可能に
東北大学は8月31日、従来の画像診断法では検出できないリンパ節の微小転移の治療や予防を可能にする新しい抗がん剤投与法を発表した。この研究は、同大大学院医工学研究科の小玉哲也教授、松木大輔元大学院生、武田航大学院生、同大学院工学研究科の多田明日香大学院生、東北大学病院の森士朗講師らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に9月1日付けで掲載されている。
がん患者における死因の9割は、転移に起因するといわれている。乳がんや頭頸部がんをはじめとする上皮系由来のがんの多くは、リンパ管を介して所属リンパ節に転移を来す。転移リンパ節の治療には、リンパ節郭清術や放射線治療のほか、静脈に抗がん剤を注射する全身化学療法が一般的だが、抗がん剤のような小さな分子は、腫瘍周囲の間質にある毛細管で容易に再吸収されてしまうために、全身化学療法では十分な成果を上げることができない場合もある。
高齢者やリンパ節郭清術適応が困難な患者などへの応用に期待
研究グループは、ヒトと同等の大きさのリンパ節を有する特殊なマウスを樹立し、リンパ節転移モデルマウスがリンパ節転移の早期診断法や治療法の開発に有効であることを実証してきた。今回の研究では、このマウスを用いた実験において、リンパネットワークの上流に位置するリンパ節に蛍光色素を直接注射することで、下流に位置するリンパ節に選択的に蛍光色素が集積されることを明らかにした。この実験事実から、転移初期段階にあるリンパ節やこのリンパ節の上流に位置するリンパ節を抗がん剤の刺入点とすることで、転移リンパ節やこのリンパ節の下流に位置するリンパ節を、治療あるいは予防的治療の対象にすることができるという結論に至ったという。
今回の手法では、リンパ節に直接抗がん剤等を注入することで、このリンパ節だけでなく、リンパ節のリンパネットワーク下流に位置するリンパ節も治療対象にすることが可能となる。抗がん剤1滴ほどの量で、転移初期段階にあるひとつのリンパ節を治療することができると見込まれ、この投与量は静脈注射による全身化学療法の投与量に比べ著しく少ない量である。この治療法は、これまで高齢や他の疾患でリンパ節郭清術の適応が困難であった患者や、手術では切除が困難なリンパ節郭清域外のリンパ節も治療できることになり、抗がん剤の副作用やリンパ節転移に悩む多くのがん患者を救済できる画期的な治療法になるものと期待されると、研究グループは述べている。
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・東北大学 プレスリリース