全ゲノム関連解析により、アンチセンスRNAの発現が報告
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は9月1日、自閉症スペクトラム患者の多くが共通して持っているものの、機能が不明だったDNA配列の中に、脳神経系の発達に重要な遺伝子の調節活性があることを、遺伝子改変マウスを用いて初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同センター神経研究所疾病研究第六部の井上-上野由紀子研究員、井上高良室長らの研究グループによるもの。研究成果は、Nature Publishingの英オンライン科学雑誌「Scientific Reports」に8月9日付けで掲載されている。
画像はリリースより
2009年に行われた史上最多の自閉症スペクトラム患者を対象とした全ゲノム関連解析により、 多くの患者が共通して持っている遺伝的多型(スニップ)は、遠く離れた2つの遺伝子の間にあることが見出されていた。さらに2012年には、そのゲノム領域から「アンチセンスRNA」が発現することが報告された。
研究グループは、細菌人工染色体と呼ばれる遺伝子操作ツールをマウス受精卵へ注入することで、この自閉症スペクトラムリスク領域をマウスの染色体へ組み込み、RNA発現の時期や場所を調節する活性(エンハンサー活性)を調査した。
塩基配列の個人差がマーカースニップの1つとなることも期待
その結果、脳の発生・発達に重要な時期に、患者で異常があることが度々報告されている大脳皮質、線条体、小脳といった脳部位において、そのリスク領域にはRNA発現をコントロールする活性があることを初めて見出したという。
エンハンサーの配列が変わると、RNA発現の時期や場所を正しくコントロール出来ずに病気のリスクとなることが知られているが、今回の遺伝的多型もその例の1つであり、 アンチセンスRNAの発現調節が自閉症スペクトラムのリスク因子となりうることが明らかになったとしている。
この成果は、極めて複雑な自閉症スペクトラムの遺伝的原因の中でも特に、発症への影響が小さく、リスク因子の機能を明らかにした点で非常に意義深い。スニップ情報は薬に対する反応性を予測するオーダーメイド医療でも利用されるため、今回の研究で着目した塩基配列の個人差がマーカースニップの1つとなることも期待される。
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・国立精神・神経医療研究センター プレスリリース