優れた抗菌活性や抗がん活性などを持つ次世代の抗菌物質として注目
北海道大学は8月31日、多様なペプチドと結合するタンパク質「カルモジュリン」を利用し、従来の技術では遺伝子組換えによる生産が困難な多様な抗菌ペプチドを効率良く生産する新技術の開発に成功したと発表した。この研究は同大大学院先端生命科学研究院の相沢智康准教授らによるもの研究成果は、米化学会「Journal of the American Chemical Society(JACS)」オンライン版に8月9日付けで掲載されている。
ヒトをはじめとしたさまざまな生物が持つ生体防御因子である「抗菌ペプチド」は、優れた抗菌活性や抗がん活性などを持つことから、次世代の抗菌物質として医薬や産業分野への応用が期待されている。そのため抗菌ペプチドの生産技術の開発は重要な課題だが、微生物などを用いた遺伝子組換えによる生産では、抗菌ペプチドが持つ生産宿主に対する抗菌活性などが問題となり、効率の良い生産が困難と考えられてきた。
宿主プロテアーゼからの分解を抑制するメカニズムも解明
研究グループは、カルモジュリン(CaM)と呼ばれるタンパク質が、多様なペプチドを認識して結合する性質を利用して、その抗菌活性を抑制することが可能であることを突き止め、CaMをキャリアタンパク質として抗菌ペプチドと融合した形で合成させることで、効率的に生産することに成功した。
CaMを利用することで、機能や立体構造が異なる10種類以上の抗菌ペプチドの効率的な生産に成功。また、創薬ターゲットとして期待されながら生産が困難な膜タンパク質の膜貫通ドメインの生産への応用が可能なことも見出したという。
さらに、微生物を宿主としてペプチド生産を行うことで、化学的な合成法では困難な安定同位体標識に成功し、核磁気共鳴(NMR)法という方法を用いて、CaMと抗菌ペプチドの立体構造や相互作用を詳細に解析。その結果、CaMが宿主内で抗菌ペプチドの活性を抑制し、宿主プロテアーゼからの分解を抑制するメカニズムも解明できたという。
遺伝子組換えによる抗菌ペプチドの生産技術により安定同位体標識を行うことで、NMR法による分子の立体構造解析やターゲットとの相互作用など、高度な解析が容易と可能となる。今後、抗菌ペプチドの医薬や産業への応用が期待される。
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・北海道大学 プレスリリース