半谷眞七子氏(名城大学薬学部)は、4年次の薬学生に実施している模擬患者とのロールプレイを対象に、その教育効果を分析した研究事例を紹介した。
薬学生には、ロールプレイ実施直後、その様子を録画したビデオの鑑賞後、ロールプレイの会話の書き起こし(トランスクリプト)後の3段階でそれぞれ気づいたことを記述してもらう。それらを解析し、[1]体験の描写のみにとどまる[2]体験の感想にとどまる[3]体験を一般化できている[4]今後の具体的行動を提示できている――の4段階のレベルに記述内容を分類する。その結果、トランスクリプト作成後の記述にはレベル3、4の深い振り返りが多く見られたという。
半谷氏は「トランスクリプト作成は会話の内容を可視化し、自身の行動に対する振り返りを深めることができた。今後の患者に対する態度や行動の変化にも影響を与えることが推察された」と言及。「教育によって学生が得た能力を評価、研究して、それを次の教育に還元することが重要。それが学生の能力の向上にもつながる。教育をやりっぱなしにするのではなく、常に評価、研究していかなければならない」と呼びかけた。
串畑太郎氏(摂南大学薬学部薬学教育学研究室)は、薬学生に実施したアンケートを解析し、早期臨床体験における学修成果を評価した研究事例を紹介した。
摂南大学薬学部は1年次に、薬局や病院を薬学生が訪問する早期臨床体験を行っている。串畑氏らは薬剤師のイメージや業務、役割など20項目について、入学直後の薬学生に5段階で回答してもらうアンケートを実施。早期臨床体験後にも同様のアンケートを実施し、回答を解析した。
その結果、訪問先によって体験内容は異なっており、臨床現場でしか見聞きできないことを十分に体験できなかった薬学生は、早期臨床体験後のアンケートにおいて否定的な回答をする傾向が強く、学修意欲が低下している可能性が示唆されたという。
串畑氏は「臨床現場の体験度が低かった学生には、夏休み期間中にもう一度体験してもらうなどのフォローアップが必要と考えている。この結果を今後の早期臨床体験に還元し、よりよいものにしていきたい」と語った。
一方、医学教育学の立場から岐阜大学医学教育開発研究センター(MEDC)の藤崎和彦氏は、「国際的にエビデンスに基づいた教育が重視されている」と強調。「国際的に医科大学や医学部は、必要な時に教育専門家へアクセスできなければならないとされている。その全ての教員は、教育をやりっぱなしにするのではなく、次の教育改革につながるように、教育専門家の助言をもとに研究を実施しましょう、という考え方になっている」と解説した。
こうした背景から日本でも、数年前から日本医学教育学会が学会認定医学教育専門家の養成を開始した。MEDCも新たにアソシエイトやフェローシップ制度を設け、裾野の拡大に取り組んでいるという。