大腸がんの90%以上でWntシグナル遺伝子変異認められる
国立がん研究センターは8月26日、大腸がんの発生に必須なシグナル伝達経路を阻害することができる新規化合物を創出したと発表した。この研究は、国がん、理化学研究所、カルナバイオサイエンス株式会社の研究グループによるもの。研究成果は、国際学術誌「Nature Communications」に同日付けで掲載されている。
画像はリリースより
従来の抗がん剤は腫瘍を縮小することができたが、薬剤が効かないがん幹細胞が残ってしまうことがあった。がん幹細胞は、自己複製能と高い造腫瘍性を持ち、治療後に少数でも残存すると、腫瘍を再構築できるため、再発の原因となる。そのため、がん幹細胞を標的とする新規治療薬の開発が期待されている。
大腸がんの90%以上の症例では、APC、β-catenin(CTNNB1)、TCF4(TCF7L2)などのWntシグナル遺伝子に変異が認められる。これらの変異はWntシグナル伝達経路を恒常的に活性化し、大腸がんの元となるがん幹細胞を発生させると考えられている。そのため、Wntシグナル伝達経路を遮断することで大腸がんが治療できると考えられ、多くの研究者や企業がWntシグナルを標的とした創薬を試みているが、医薬品として実用化されたものはない。
NCB-0846投与のマウスでがん幹細胞マーカーCD44の発現が抑制
研究グループは、TNIKというリン酸化酵素が、Wntシグナル経路の活性化に必要なことを発見。TNIKは、大腸がん細胞の増殖維持に必須であり、その活性を阻害できる化合物が同定できれば、治療薬になると考えられた。
そこで、国がんとカルナバイオサイエンスとの産学共同で化合物ライブラリーをスクリーニングし、徹底的な誘導体合成から最終的にTNIKの酵素活性を低濃度(IC50値21 nM)で阻害する新規化合物NCB-0846を同定した。理研は、NCB-0846とTNIKの複合体のX線結晶構造解析を行い、この化合物がTNIKの酵素活性を抑制するメカニズムを明らかにした。
また、大腸がん幹細胞は高い造腫瘍性があり、細胞1個からでも腫瘍を再構築することができるが、NCB-0846はその働きを強く抑制することが解明。さらに、NCB-0846は経口投与可能であり、ヒト大腸がん細胞を移植したマウスに投与すると、がんの増殖およびがん幹細胞マーカーCD44の発現が顕著に抑制されることがわかったとしている。
現在、臨床試験の前段階となる非臨床試験を実施中で、今後、大腸がんに対する新規薬剤として実用化を目指していくと、研究グループは述べている。
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・国立がん研究センター プレスリリース