自閉スペクトラム症60人で12週間のランダム化二重盲検試験
日本医療研究開発機構(AMED)は8月23日、オキシトシンスプレーの男性青年自閉スペクトラム症者への症状軽減の程度は、点鼻用量と遺伝的特徴によって異なることがわかったと発表した。研究は、福井大学子どものこころの発達研究センターの小坂浩隆教授、岡本悠子特命助教、医学部精神医学領域の和田有司教授、金沢大学の棟居俊夫特任教授、東京大学の山末英典准教授(現、浜松医科大学教授)を中心に行われたもの。研究成果は、米国科学誌「Translational Psychiatry」電子版に同日付けで掲載されている。
画像はリリースより
経鼻オキシトシンスプレーは、自閉スペクトラム症の社会性障害などの症状を軽減する効果があるとして近年注目されているが、どのぐらいの量を点鼻すれば効果が得られるのか、個人差があるのかなどはよくわかっていない。
そこで今回は、用量効果と個人差を解明するため、知的障害を伴わない青年期(15才から39才)の自閉スペクトラム症60人を無作為に、1日32単位(スプレー1噴霧=国際単位オキシトシン4単位相当)のオキシトシンを経鼻スプレーする高用量群、1日16単位のオキシトシンをスプレーする低用量群、プラセボ(偽薬)をスプレーするプラセボ群、それぞれ20人に分け、ランダム化二重盲検試験を12週間行った。各参加者のスプレー残量から実際に使用した点鼻用量を測定し、オキシトシンによる臨床症状の軽減度に点鼻用量が関係しているかどうかを調べた。同時に、各参加者のオキシトシン受容体遺伝子多型も検査した。
テーラーメイド医療の確立に期待
その結果、男性では、1日21単位より多く点鼻した参加者9人は、21単位以下の参加者19人よりも、視線が合う、共感が強まるなどの症状軽減が大きいことが判明。さらに、1日21単位以下の参加者19人では、オキシトシンが作用する受容体のタイプを決定する遺伝子の1つ(rs6791619)の塩基がT/TまたはT/Cである参加者11人はC/Cである参加者8人と比べ臨床症状がより軽減していた。
また、二重盲検期12週間終了後、全参加者に1日32単位のオキシトシンを12週間スプレーする非盲検期も実施。計24週間の安全性を確認したところ、重大な有害事象は認められなかったとしている。
今後、さまざまな用量での効果の違いを調べることで、症状を軽減するための最適な点鼻用量を見つけられることが期待できる。また、遺伝的背景がオキシトシンの効果に与える影響については、テーラーメイド医療につながる知見であり、将来的に、オキシトシンスプレーを用いる前に患者の遺伝子多型から治療効果を予測することで、個々の患者に合った治療選択ができるようになることも期待できる。
さらに、今回の臨床試験は60人という比較的少ない参加者で行ったため、多人数でも同じ効果が得られるか、頻度の少ない副作用が大規模臨床試験実施時に見つからないか、効果と安全性の再確認をすることが重要。現在、福井大学は、東京大学、金沢大学、名古屋大学とともに実施している「自閉スペクトラム症を対象としたオキシトシン経鼻剤の多施設・並行群間比較・プラセボ対照・二重盲検・検証的試験(JOIN-Trial)」に参加しており、この大規模調査の結果は、オキシトシンスプレーの自閉スペクトラム症の症状軽減効果や安全性にさらなる知見を与えることになると見込まれている。
▼関連リンク
・日本医療研究開発機構 プレスリリース