スフィンゴミエリンとコレステロールの複合体にのみ結合
理化学研究所は8月22日、食用キノコのマイタケに脂質ラフトと呼ばれる動物細胞膜上の脂質構造に結合するタンパク質を発見し「ナカノリ」と名付け、このナカノリの存在下ではインフルエンザウイルスの増殖が抑えられることを明らかにしたと発表した。この研究は、理研小林脂質生物学研究室の小林俊秀主任研究員(研究当時)らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は米国の科学雑誌「The FASEB Journal」オンライン版に8月11日付けで掲載されている。
画像はリリースより
細胞膜は、脂質とタンパク質の複合体で、さまざまな組成の脂質・タンパク質集合体からなる膜の微小領域(ドメイン)が集合して形作っている。細胞膜上の脂質ラフトは、スフィンゴ脂質とコレステロールを主成分とした領域(脂質ドメイン)で、細胞膜を介した情報伝達、膜輸送、ウイルスやバクテリアの感染において重要な役割を果たしていると考えられているが、その実態はよくわかっていない。
研究グループは、動物細胞の主要なスフィンゴ脂質であるスフィンゴミエリンとコレステロールを用いて人工的な脂質ラフトを作製し、さまざまな細胞(キノコではマイタケ、エリンギ、シイタケ、マツタケ、ブナシメジ)の抽出液を用いて結合タンパク質をスクリーニングした。その結果、マイタケ抽出液からアミノ酸202個からなる新しいタンパク質を発見。さまざまな生化学的、生物物理学的な実験から、このタンパク質がスフィンゴミエリンとコレステロールの複合体にのみ結合し、他の脂質、タンパク質とは結合しないことが明らかになった。脂質ラフト(ラフトは筏(いかだ)の意味)に特異的に結合することから、これを木曽の中乗り、筏乗りの意味である「ナカノリ」と名付けた。
さらなる解析で、より小分子量の抗ウイルス薬設計の可能性
ナカノリには毒性がないため、生きた動物細胞での脂質ラフトの解析が可能となり、超解像顕微鏡、電子顕微鏡による観察で、脂質ラフトのサイズや脂質ラフトに存在するタンパク質の分布が明らかになるとともに、コレステロール代謝異常の患者由来の細胞で、細胞膜の脂質ラフトが正常細胞と異なっていることがわかった。さらに、インフルエンザ感染における脂質ラフトの役割について、ナカノリを使って調べたところ、インフルエンザウイルスは脂質ラフトの縁から出芽すること、ナカノリ存在下では培養細胞でのウイルスの増殖が抑えられることがわかった。
今回の研究成果により、脂質ラフトの構造、動態、機能の理解がさらに進むものと考えられる。研究グループは、ナカノリの脂質結合部位を特定するなど解析が進めば、より小分子量の抗ウイルス薬の設計につながることが期待できるとしている。今後、エイズウイルスやエボラウイルスのウイルス感染にも効果があるかなど、研究を進める予定。
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・理化学研究所 プレスリリース