ショウジョウバエ幼虫の運動神経を用いた研究により
広島大学は8月17日、ショウジョウバエを用いた研究により、がん関連タンパク質であるStrip、Hippoが神経シナプス結合を調節していることを発見したと発表した。さらに、Strip、Hippoタンパク質は神経シナプス内のアクチン細胞骨格に作用することで神経シナプスに影響を与えていることも突き止めたとしている。
画像はリリースより
この研究は、同大大学院理学研究科生物科学専攻の千原崇裕教授らの研究グループが東京大学大学院薬学系研究科、東京都医学総合研究所、スタンフォード大学生物学科と共同で行ったもの。研究成果は「Cell Reports」オンライン版に8月18日付けで掲載されている。
ヒトが物事を記憶したり身体を動かしたりするには、脳の中の神経細胞が特定の相手とシナプス結合をつくって神経情報を連絡しあう必要があるため、神経回路形成においては、適切な場所に適切な数の神経シナプス結合をつくることが重要だ。Stripががん抑制因子として注目を浴びているHippoを抑制することがわかっていたが、Strip、Hippoが神経シナプスにおいてどのような機能を持っているかは全くわかっていなかった。
神経関連の遺伝病発症メカニズムの解明に期待
ショウジョウバエの幼虫は、体表にある筋肉の弛緩・収縮を繰り返すことによって運動しており、この体表の筋肉をコントロールするために運動神経の軸索が筋肉表面にシナプス結合をつくっている。このシナプス領域を「神経筋接合部」と呼ぶ。神経筋接合部における運動神経軸索末端では、シナプス小胞が充填された「ブートン」と呼ばれるこぶ状の構造が連なっている。
研究グループは、Stripがこのブートンの中に局在していることを発見。さらにショウジョウバエの遺伝学的手法、および生化学的手法を駆使することにより、StripはHippoと結合し、その活性を抑制することで小さなブートンである「サテライトブートン」の形成を調節していることを明らかにした。この際、Strip-Hippoによるシグナル伝達経路はシナプス内の直鎖状アクチンの重合度合いを制御することでシナプスのかたちや機能を調節していると考えられるという。
今回の研究成果では、既に細胞分裂を終えた神経細胞におけるHippoタンパク質の機能が明らかになった。今後は、発生を終え、成熟した個体の神経系におけるStrip、Hippoタンパク質の役割に注目が集まるとともに、ヒトの神経シナプスの形づくりに関わる基本的な仕組みや、神経関連の遺伝病発症メカニズムの解明、さらにはがんと神経疾患の関わりについても理解を深めるきっかけになる、と研究グループは述べている。
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