従来法では医薬品質管理の困難さや薬効のばらつきが課題に
東京大学は8月19日、金属を用いないトリプトファン選択的タンパク質修飾反応の開発に成功したと発表した。この研究は、同大大学院薬学系研究科の金井求教授、生長幸之助助教らの研究グループによるもの。研究成果は「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に8月18日付けで掲載されている。
画像はリリースより
タンパク質は生体内機能を司る物質であり、医薬品などにも応用されている。中でも抗体医薬は、近年大きく売り上げを伸ばしており、現在では売上上位医薬品リストの大半を占めるに至っている。この背景にあって、抗体に小分子医薬を結合させて機能向上を図った抗体―薬物複合体に代表される「化学修飾型タンパク質製剤」が次世代型医薬群として有望視されている。
しかし、それを供給するための化学修飾反応の多くは、さまざまな位置のアミノ酸をランダムに修飾して混合物を与えてしまう、タンパク質の機能に重要とされる高次構造に影響を与えてしまうなど数々の問題を抱えている。従来法に頼る供給法では、医薬品質管理の困難さや薬効のばらつきなど実用上の大きな問題が顕在化していた。
独自開発した「安定有機ラジカル」により
研究グループは、独自開発した「安定有機ラジカル」を用いることにより、生物活性ペプチド・酵素・抗体などに含まれるトリプトファン残基に対し、多彩な機能性小分子を結合させ、均質性の高い修飾体を得る方法を開発。水中・室温・ほぼ中性条件・短時間で実施でき、試薬を混ぜるだけの簡便な操作で行えるため、合成化学が専門でない科学者でも実施可能な、実用性の高い手法だとしている。
今回の研究成果により、より均質性の高いタンパク質修飾体が簡便に調製可能となる。高価かつ毒性のある重金属を使用せず、簡便に実施可能な化学反応であるため、とりわけ生化学的応用を見据えた幅広い展開が見込まれる。抗体-薬物複合体に代表される人工化学修飾を施したタンパク質製剤は、今後大きな市場の拡大が見込まれており、今回開発された手法の普及によって、その品質管理、薬効制御などが大きく進歩することも期待される、と研究グループは述べている。
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