欧米、救急隊の12誘導心電図検査実施を推奨
国立循環器病研究センターは8月17日、モバイルテレメディシンシステム(MTS)を用いた救急隊による病院前12誘導心電図伝送によって、急性心筋梗塞の患者に対して迅速なカテーテル治療を提供できることを報告した。この研究は、国循心臓血管内科部門の研究チームによって行われたもので、その成果は英文医学雑誌「Circulation Journal」に掲載された。
画像はリリースより
MTSとは、国循とNTTドコモが開発した、インターネットを介し救急車と病院をリアルタイムで結ぶ医療情報共有システム。救急車で搬送中の患者の12誘導心電図、血圧、呼吸、脈拍などのバイタルデータや小型ビデオカメラによる患者の映像など、救急医療に必要なデータ伝達による救急車と病院の連携を実現し、医師の指示のもとでの救急救命士による適切な初期対応や早期の診断による専門病院への収容が可能になる。急性心筋梗塞の場合は、冠動脈カテーテル治療チームは救急車到着前から適切な治療準備ができる。
急性心筋梗塞は現在、経皮的冠動脈形成術(PCI)とよばれるカテーテル治療によって、早期の血流改善が可能となった。しかし、急性心筋梗塞の救命率はPCIによって改善傾向にあるものの、未だに死亡率は8%を超えており、一層の改善が必要。急性心筋梗塞の診断には、12誘導心電図検査が不可欠で、特に12誘導心電図でST上昇を認めるST上昇型急性心筋梗塞は緊急治療を必要とする。そのため、欧米の治療指針では、急性心筋梗塞が疑われる患者に対し救急隊が現場で12誘導心電図検査を行い、ST上昇が判明すれば緊急カテーテル治療が可能な病院に迅速に搬送することを強く推奨している。
発症24時間以内のST上昇型患者393人で有効性を検証
日本でも12誘導心電図検査の結果を正確に判読することが重要となり、循環器領域の専門医師が現場の12誘導心電図を判読できる状況を作ることが理想とされている。この問題を解決するひとつの方法として、救急隊が現場で行った12誘導心電図データを病院の医師に伝送するシステムが開発されてきたが、救急隊による12誘導心電図検査の実施自体が十分ではなく、12誘導心電図伝送システムの有効性も定かではなかった。
今回、研究チームは、2008年から2012年までに国循に搬送された、発症24時間以内のST上昇型急性心筋梗塞の患者393人を対象に、MTSの急性心筋梗塞の治療における有効性を検証。その結果、MTSを使用して搬送した患者群(MTS群)は、従来の救急隊の搬送による患者群(直接搬送群)や他院から紹介搬送された群(紹介搬送群)と比較して、救急隊の患者接触からカテーテル治療(再灌流)が達成されるまでの時間や病院に到着してから再灌流が達成されるまでの時間が有意に短縮していた。さらに、再灌流による効果がより期待できる発症から6時間以内の患者群においても、やはりMTS群が有意に短縮していたとしている。
研究から、病院前12誘導心電図伝送は、急性心筋梗塞患者の早期カテーテル治療への実施に貢献できる可能性が示唆された。搬送時間の長い地域でも、こうした12誘導心電図伝送システムの導入によって、適切な搬送病院選択や必要な治療の遅延を解消できる可能性があると、研究チームは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース