GABAを識別し情報を伝達するタンパク質を蛍光センサーに改変
京都大学は8月16日、γ−アミノ酪酸(GABA)を識別し情報を伝達するタンパク質「GABAA受容体」を蛍光センサーに改変し、特定の受容体に作用する薬剤を探索する新たな手法を開発したと発表した。この研究は、同大学大学院工学研究科の浜地格教授らが、福岡大学医学部の沼田朋大講師らと共同で行ったもの。研究成果は、英国科学雑誌「Nature Chemical Biology」オンライン速報版に8月15日付けで公開された。
画像はリリースより
GABAA受容体は、GABAを認識して情報を伝達し、神経伝達の制御において必要不可欠なもの。この異常が不安障害や睡眠障害、うつ病や統合失調症などの多くの精神疾患に深く関係していることがわかっており、向精神薬の創薬標的として着目されている。実際に、GABAA受容体作用薬の臨床応用も報告されている。
しかし、現在用いられている薬剤は複数種類のGABAA受容体に作用してしまうことによる副作用の問題が指摘されており、特定のGABAA受容体にしか作用しない薬剤の開発が求められてきていた。新規薬剤の開発では、受容体の構造を基にした創薬探索法が用いられるが、GABAA受容体の場合は複数のタンパク質からなる複合体を形成するという構造の複雑さから、創薬探索法の構築自体が困難な状況だった。
PPTとTBB、新たな向精神薬候補に
研究グループは、ベンゾジアゼピン結合部位およびGABA結合部位に対する作用薬の蛍光センサーを構築。研究で開発したベンゾジアゼピン結合部位の蛍光センサーを創薬探索法へと展開した。センサーを用いて1280個の化合物群から蛍光回復を手がかりに作用薬の探索を行った結果、4つの化合物が候補に残り、そのうちの2つの化合物はGABAA受容体に作用することが既に知られていたが、残りの2つの化合物(PPTおよびTBB)に関しては、GABAA受容体に作用することが報告されていない新たなGABAA受容体の作用薬だった。PPTとTBBに関して、GABAA受容体に対する作用を詳細に調べてみたところ、これらの化合物がGABAA受容体の活性を阻害すること、既存の作用薬とは異なる仕組みで活性を阻害していることが明らかになったとしている。
さらに、特定の種類のGABAA受容体のみに作用する化合物の同定を目指して、蛍光センサー構築の拡張を行った。具体的には、鎮静に関わるGABAA受容体、不安に関わるGABAA受容体、認知に関わるGABAA受容体に対して、それぞれの受容体を蛍光センサー化することに成功した。
今回の研究によるGABAA受容体作用薬に対する蛍光センサーの構築は、副作用のないGABAA受容体作用薬の開発につながると期待される。また、2つのGABAA受容体作用薬(PPTおよびTBB)は、今後新たな向精神薬候補になると期待される。加えて研究手法は、構造情報が不十分で合理的な薬剤設計が難しかった他の細胞膜受容体を標的とした薬剤探索においても幅広く応用できると期待されると、研究グループは述べている。
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・京都大学 研究成果