大腸の慢性炎症が「インスリン抵抗性」引き起こし
慶應義塾大学は8月10日、遺伝子改変マウスを用いた動物実験で、高脂肪食の過剰摂取に伴う大腸の慢性炎症が「インスリン抵抗性」を引き起こし、糖尿病の発症につながることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学医学部内科学(腎臓・内分泌・代謝)教室の川野義長助教、中江淳特任准教授、伊藤裕教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Metabolism」オンライン版に8月9日付けで掲載されている。
画像はリリースより
2型糖尿病は、患者数が2000万人にのぼり、網膜症や腎症といった合併症を引き起こし失明や透析の原因となるだけでなく、高血圧症、脂質異常症と共に動脈硬化性疾患を誘発する。発症する主な原因のひとつとして、肥満や高脂肪食の過剰摂取に伴い、全身でのインスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」という考え方が知られているが、肥満によりインスリン抵抗性が起きる理由については今なお解明されていない点が多い。
これまで、肥満に伴うインスリン抵抗性発症には「内臓脂肪の炎症」が重要であるとされてきた一方、近年の研究報告から、高脂肪食を摂取して肥満がおこる前から、腸管内において腸内細菌叢のバランスが崩れることがわかっている。腸管は、吸収や排泄する働きだけでなく、免疫細胞の70%は腸管に集中しているという報告もあり、外界から身を守るための免疫器官としても重要。このことから、高脂肪食による腸内細菌の変化を受けて、体内において腸の免疫環境も大きく変化する事が想定されていた。
ヒト大腸の解析で、新規の糖尿病治療薬開発へ
研究グループは、マウスに脂肪分を60%含む高脂肪食を摂取させることで、脂肪組織よりも先に、免疫細胞のマクロファージの集積を促す蛋白質Ccl2(Chemokine C-C motif ligand 2)の産生が増加し、マクロファージが集積することで、大腸の慢性炎症が引き起こされることを解明した。さらに、大腸腸管上皮だけでCcl2が欠損するマウスを作製し、大腸の慢性炎症を抑えると、インスリンの効きが良くなり、血糖値の上昇が30%程度低下することもわかったとしている。
これらの結果から、ヒトにおいても脂肪含量の多い高脂肪食を摂食する場合、大腸のマクロファージにより炎症が引き起こされ糖尿病発症につながりうることが明らかになり、大腸におけるCcl2の産生を抑制することが、肥満による2型糖尿病発症を抑える新たな戦略になりうると考えられる。
研究グループは今後、ヒト大腸におけるCcl2の同定、および具体的なCcl2産生の分子メカニズム、腸管上皮からのCcl2産生・活性を抑制する化合物の同定を解析していくことにより、新規の糖尿病治療薬の開発を目指すとしている。
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