破綻するとSLEに類似した自己免疫疾患に
横浜市立大学は8月10日、SrcファミリーキナーゼLynが転写因子IRF5の活性を選択的に抑制することで自然免疫の過剰な応答を防ぐ仕組みを発見し、これが破綻すると全身性エリテマトーデス(SLE)に類似した自己免疫疾患が引き起こされることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学大学院医学研究科免疫学の田村智彦教授、藩龍馬助教らの研究グループが、東京大学、沖縄科学技術大学院大学、エーザイ株式会社と共同で行ったもの。研究成果は米国の科学雑誌「Immunity」オンライン版に8月9日付けで掲載された。
画像はリリースより
自己免疫疾患の難病であるSLEは、自分のDNAなどと反応する自己抗体が複合体(免疫複合体)を形成して組織に沈着することで、全身の臓器に炎症を起こす。特に20~40歳の女性に多く発症し、日本では6~10万人が罹患していると考えられている。現在のSLE治療法はステロイドなどを用いた比較的強力な免疫抑制が中心だが、副作用により生活の質が低下することが多いため、新たな治療法の開発が望まれている。
インターフェロン(IFN)調節因子ファミリーのひとつであるIRF5は、自然免疫応答を引き起こす重要な転写因子である一方で、SLEとも関連することが多数報告されている。しかし、IRF5の活性化を制御する仕組みにまだ不明な点が残されていることが、IRF5をSLEの標的とした治療法を開発する上で問題となっている。
IRF5の質や量の選択的な調節法の開発へ
研究グループは、IRF5活性化の制御因子を見つけるために、IRF5と結合するリン酸化酵素(キナーゼ)のスクリーニングなどを行った。それらの結果によると、正常では、LynがTLR-MyD88経路においてIRF5の活性を抑制してその程度を適度に保つことで免疫系の働きすぎを防いでいるため、健康が保たれている。Lynが欠損すると、この調節機構が破綻し、IRF5が過剰に活性化してしまう。すると、樹状細胞からⅠ型IFNや炎症性サイトカインなどが異常に分泌され、これが自己反応性B細胞に作用して自己抗体を産生させる。産生された自己抗体は免疫複合体を形成し、これがさらに樹状細胞をはじめとする免疫細胞を刺激。以上の一連の反応がつながって悪循環を生じることで、SLEが発症すると理解できるとしている。
今回、研究グループは、IRF5と直接結合してその活性を選択的に阻害する制御因子としてLynを初めて同定した。また、Lyn欠損マウスでIRF5が活性化していること、そしてIRF5の量を半分に減らすだけでLyn欠損マウスにおけるSLE発症を阻止できることが示された。すなわちIRF5の質(活性)あるいは量を選択的に減らすことができれば、副作用が少なくて効果の高いSLEの新たな治療法となることが期待される。
一方で、SLE病態の発症後にIRF5を抑制しても症状が改善するのかどうかや、SLE患者の病勢とIRF5活性化状態の関連など、確認が必要なことも残っている。今後はこれらの課題に取り組みながら、IRF5の質や量の選択的な調節法を開発したいと、研究グループは述べている。
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・横浜市立大学 研究成果