空腹/低血糖時の過剰な食欲を弱める働きあり
自治医科大学は8月10日、血糖値(グルコース濃度)の高低により、アディポネクチンの食欲作用が亢進と抑制に切り替わることを世界で初めて発見したと発表した。この研究は、同大学医学部統合生理学部門の矢田俊彦教授と須山成朝助教、東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科の門脇孝教授と窪田直人博士らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に8月9日付けで掲載されている。
アディポネクチンは脂肪細胞から分泌され、肝臓、骨格筋などの臓器でインスリン感受性を亢進し、抗糖尿病・抗メタボリックシンドローム作用を示す善玉ホルモンとして知られている。しかし、脳への作用として、食欲の亢進と抑制の相反する報告があり、矛盾となっていた。
研究結果によると、低グルコース濃度下ではアディポネクチンは、視床下部弓状核の摂食抑制性プロオピオメラノコルチン(POMC)ニューロンを活性化した。これに対応し、空腹/低血糖時にアディポネクチンを脳室内へ投与すると摂食量が減少した。この作用は、空腹/低血糖時の過剰な食欲を弱める働きがあると推定されるとしている。
肥満や摂食障害の新規治療法の開発基盤に
反対に、高グルコース濃度下ではアディポネクチンはPOMCニューロンを抑制。これに対応し、グルコースと同時に投与したアディポネクチンは摂食量を増加した。この作用は、過剰な満腹感を弱めて摂食が可能な時に効率よくエネルギーを取り込む、動物本来の生存戦略の一端を担うと推定される。これらは、血糖値高低に依存したホルモン作用の極性転換という、ダイナミックな生体制御の原理の発見となる。
さらに、研究グループは、阻害剤を用いた実験から、アディポネクチンのPOMCニューロン活性化および抑制作用を仲介する細胞内シグナル伝達系として、それぞれPI3キナーゼおよびAMP依存的キナーゼを同定し、作用の切り替えの分子機構も明らかにした。これらの結果は、肥満や摂食障害(過食症、拒食症)の新規治療法の開発基盤となることが期待されるとしている。
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