外科手術で破裂を未然に予防するほかなく
近畿大学は8月8日、腹部大動脈瘤について、破裂の原因を明らかにしたと発表した。この研究は、同大学農学部応用生命化学科応用細胞生物学研究室の財満信宏准教授ら、浜松医科大学の海野直樹准教授ら、日本水産株式会社との共同研究によるもの。研究論文は、ネイチャー・パブリッシング・グループが発刊する電子ジャーナル「Scientific Reports」に8月8日付けで掲載された。
画像はリリースより
司馬遼太郎やアインシュタインの死因となったと言われる腹部大動脈瘤は、日本人の死因の10位前後に位置する疾患。なぜ破裂に至るかというメカニズムの詳細は明らかになっておらず、いまだ破裂を予防する薬剤や、拡大を抑制する薬剤が開発されていないことが問題となっている。腹部大動脈瘤が見つかった場合、現段階ではステントグラフト内挿術や人工血管置換術などの外科手術により破裂を未然に予防するほかなく、破裂予防の薬物などの開発が望まれている。
共同研究グループは、これまでに栄養血管の閉塞とそれによる血管壁の低酸素、低栄養が腹部大動脈瘤形成の原因となることを明らかにしていたが、今回の研究により、栄養血管が閉塞すると血管壁に脂肪細胞が異常出現し始めることを新たに発見した。
重要な標的細胞発見、破裂予防の薬剤や機能性食品開発に期待
実験的に脂肪細胞が異常出現しやすい状態を作ったうえで、中性脂肪の一種であるトリオレインを投与して血管壁の脂肪細胞が成長しやすい条件にすると、血管壁の脂肪細胞のサイズと数は増加し、腹部大動脈瘤の破裂が促進された。一方、EPAを高含有する魚油を投与して血管壁の脂肪細胞が成長しにくい条件にすると、トリオレイン投与時と比較して腹部大動脈瘤の破裂リスクが低下した。腹部大動脈瘤患者においては、瘤が大きいほど破裂のリスクは高くなることが知られている。血液中の中性脂肪値やコレステロール値は、腹部大動脈瘤の大きさと相関しない一方で、血管壁の脂肪細胞数と腹部大動脈瘤の大きさが相関することもわかった。
また、血管壁に異常出現する脂肪細胞が腹部大動脈瘤破裂の原因となる機構を明らかにするために行った病理解析の結果、血管壁で肥大化した脂肪細胞の周りではMCP-1が多く分泌されており、これが脂肪細胞周囲にマクロファージなどの炎症細胞を呼び寄せていることを見出した。呼び寄せられた細胞が、マトリックスメタロプロテアーゼを分泌することにより、脂肪細胞周辺の血管強度を低下させる原因となることも明らかにした。肥大化した脂肪細胞を中心にして血管壁の破壊が進むため、血管壁に脂肪細胞が増加するにつれて破裂のリスクが上昇していくと考えられるとしている。
研究成果は、腹部大動脈瘤の破裂を予防するための重要な標的細胞を発見したものでもあり、未だに開発されていない腹部大動脈瘤の破裂を予防する薬剤や機能性食品などの開発につながると期待される。
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