神経幹細胞移植単独では有効ではなく
慶應義塾大学は8月3日、これまで神経幹細胞移植単独では機能回復が得られないとされていた慢性期脊髄損傷に対して、適切なリハビリテーションを併用することで機能回復が相加的・相乗的に促進されることを明らかにしたと発表した。
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研究は、同大学医学部の脊髄損傷治療研究グループ、生理学教室、リハビリテーション医学教室によるもの。研究成果は、英国の科学専門誌「Scientific Reports」誌のオンライン版に、同日付けで掲載された。
日本では、年間およそ5,000人が脊髄損傷を受傷しており、慢性期脊髄損傷患者数はのべ20万人以上に達しているといわれている。慢性期脊髄損傷に対しては神経幹細胞移植単独では有効ではなく、開発途上の特殊な薬剤と併用する以外に治療が難しいとする研究結果が世界各地の研究グループから報告されている。脊髄損傷患者の多くは慢性期であり、いかにして再生医療を慢性期の治療に結びつけるかということが、脊髄損傷研究での大きな課題となっていた。
iPS細胞由来神経幹細胞移植の実現に期待
研究グループは、重度脊髄損傷モデルマウスに対して、慢性期に同じ系統のマウスの胎仔から樹立した神経幹・前駆細胞を移植し、その後トレッドミル歩行訓練を8週間施行した。治療効果を明らかにするために、併用療法群、移植単独群、訓練単独群、対照群の4群を比較検討。その結果、併用療法群で対照群と比較して有意な運動機能の回復が観察された。
機能回復メカニズムを明らかにするために、移植細胞の生着率を評価したところ、訓練併用の有無による影響はみられなかった。一方、移植単独群では脊髄の伝導性や歩行中枢を活性化させる効果が観察され、訓練単独群では後肢の痙縮や運動コントロールへの適切な抑制性を改善させる効果がみられた。ところが、両者の併用療法群ではこれらの相加的な効果にとどまらず、ニューロンへ分化する神経幹細胞の割合の増加、腰部脊髄にある歩行中枢での新しい神経線維やシナプスの増加に代表される神経回路の強化といった相乗的効果が発揮されることが明らかになったとしている。
これまで神経幹細胞移植単独では治療困難と考えられてきた慢性期脊髄損傷に対して、身近なリハビリテーションという手段を組み合わせることで、有意な回復が得られる可能性を示した今回の研究は、慢性期脊髄損傷患者へのiPS細胞由来神経幹細胞移植の実現を目指すうえで大きな一歩であると考えられると、研究グループは述べている。
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・慶應義塾大学 プレスリリース