化学発光を用いるサンドイッチ型の酵素抗体法を用いて測定
国立循環器病研究センターは8月1日、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の3種類の分子型の個別濃度測定法を世界で初めて開発したと発表した。
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この研究は、南野直人創薬オノミックス解析センター長、寒川賢治研究所長、心不全科の高濱博幸医師、安斉俊久部長らの研究チームによるもの。研究成果は、米国臨床化学会専門誌「The Journal of Applied Laboratory Medicine」オンライン版に8月1日付けで掲載されている。
心不全の治療と重症化防止は、循環器医療における最も重要な課題のひとつ。急性心不全治療には現在、寒川所長らが1984年に発見したANP製剤が広く使用されている。ANPは、心臓から分泌され血中に流れる循環ペプチドで、Na利尿作用、降圧作用により心不全を改善する。ANPには、α-ANP、β-ANP、γ-ANPの3分子型があり、通常心筋細胞にはγ-ANP、血液中にはα-ANPのみが存在するが、心不全の発症・重症化により心筋にはα-ANPとβ-ANPが、血中にはβ-ANPとγ-ANPが、それぞれ検出されるようになる。各分子型の血中濃度が測定できれば、心不全の改善状態や経過が推測可能になると考えられてきたが、これまでは3分子型の合計濃度しか測定できなかった。
心不全治療薬開発の指標としても利用できる可能性
研究チームは今回、化学発光を用いるサンドイッチ型の酵素抗体法を使用。標的分子を2種の特異的な抗体で挟んで測定するこの方法で、0.1pMの濃度(絶対量で5attomole)まで正確に測定可能となった。α-ANP、β-ANP、γ-ANPは心不全の検査に汎用されているBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)とは異なる独特の挙動を示すため、ANPの3分子型を測定することで、心不全の状態をBNPとは異なる観点からより詳しく知ることができると考えられるという。
今回の研究成果により、3分子型の測定によって血中ANPの総活性量も算出可能になり、この総活性量も心不全における重要なマーカーとなると考えられる。今後は心不全症例を200例まで検討拡大し、心不全の重症度、他の体液性調節因子とANP3分子型の血中濃度との詳細な比較解析を行い、心不全時における各分子型の変動の臨床的意義を明らかにしていく予定。加えて、心不全治療薬の開発においても、これらの血中濃度を指標として利用できる可能性がある、と研究チームは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース