iPS細胞株ごとの分化能で特定の細胞へのなりやすさに差あり
京都大学iPS細胞研究所CiRAは7月29日、ヒトiPS細胞のエピジェネティクス状態が血液細胞への分化能の指標となることを明らかにしたと発表した。この研究は、CiRAの西澤正俊研究員、同大学血液・腫瘍内科の高折晃史教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学誌「Cell Stem Cell」に7月28日付けで公開された。
画像はリリースより
iPS細胞は、さまざまな細胞へと分化することのできる多能性を持っているため、再生医療や創薬、病態解明への応用が期待されている。しかし、iPS細胞株ごとの分化能を詳細に調べてみると、特定の細胞へのなりやすさに差がみられる。
その原因はいくつか考えられるが、ひとつ目は、体細胞の時のDNAメチル化状態が初期化後も残っていることにある。2つ目の原因として、体細胞からiPS細胞への初期化の際に生じるDNAメチル化の異常が知られている。3つ目としては、iPS細胞を作製するための体細胞を提供したドナーの遺伝的な差にあると考えられている。原因はいくつも考えられるものの、これまでの研究は、ヒトiPS細胞の株数が少なく、結論を出すには難しい状況だった。
35株のiPS細胞と4株のES細胞を解析
研究グループは、15人のドナーから得られたヒト線維芽細胞、血液細胞(臍帯血、末梢血)、歯髄細胞、角化細胞から作製した35のヒトiPS細胞株、4つの胚性幹細胞(ES細胞)株を用いて、それぞれの株の血液細胞へのなりやすさについて、細胞内の遺伝子発現、DNAのメチル化状態、染色体の状態を指標に解析した。
その結果、iPS細胞やES細胞のような多能性幹細胞から造血前駆細胞への初期分化には、IGF2遺伝子の発現量が影響することが明らかになった。一方、造血前駆細胞から血液細胞への成熟能に関しては、体細胞のiPS細胞への初期化の際に起こるDNAメチル化量が影響することが明らかになったとしている。
研究成果は、体細胞からiPS細胞への初期化のメカニズムの解明に役立つと同時に、医療応用に向けて、適したiPS細胞株を得るための指標になることが期待できると、研究グループは述べている。
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