D-アラニン、D-グルタミン酸、D-プロリンは腸内細菌によってのみ
慶應義塾大学は7月28日、腸内細菌によってつくられるD型アミノ酸がマウスの腸内で代謝されて腸内環境維持に役立てられる仕組みを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大学医学部解剖学教室の笹部潤平専任講師、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院感染症部門・ハーバード大学医学部のMatthew Waldor教授らの研究チームが、九州大学大学院薬学研究院、株式会社資生堂と共同で行ったもの。研究成果は、「Nature Microbiology」オンライン版に7月25日付けで掲載された。
画像はリリースより
哺乳類が脳内で2種類のD-アミノ酸だけをつくるのとは対照的に、細菌は多種類のD-アミノ酸をつくり、細菌の細胞壁をつくる材料や周囲の細菌同士の連絡手段として利用することが近年わかってきているが、体内で共存する腸内の細菌がどのようなD-アミノ酸をつくっているのか、D-アミノ酸が腸内細菌やヒトの体に対してどのような意味があるのかは解明されていなかった。
共同研究グループは、ヒトを含めた哺乳類がつくることのできない多種類のD-アミノ酸を、細菌だけが合成できるという事実に着目し、腸内細菌叢がつくるD-アミノ酸の種類を調べるため、通常の腸内細菌叢を持つマウス(SPFマウス)と腸内細菌叢を全く持たないマウス(GFマウス)における腸内容物を比較した。その結果、SPFマウスでは4種のD-アミノ酸(D-アラニン、D-グルタミン酸、D-アスパラギン酸、D-プロリン)が検出されたのに対して、GFマウスではごく少量のD-アスパラギン酸しか検出されず、D-アラニン、D-グルタミン酸、D-プロリンは腸内細菌によってのみつくられていることが明らかになった。
DAO、小腸内で抗菌タンパク質として作用して生体防御に関与
D-アミノ酸を分解する酵素として知られるD-アミノ酸酸化酵素(DAO)に着目して、マウス腸内の発現を調査。その結果、小腸上皮(腸細胞、杯細胞)に限定的にDAOが分布していることを発見し、その一部は小腸内腔に分泌されて小腸内腔のD-アミノ酸を分解していることがわかった。また、腸内細菌叢のつくるD-アミノ酸を哺乳類のDAOが腸内で分解することの意義を検討した結果、DAOがD-アミノ酸を分解することで、特に感染性胃腸炎などを引き起こすビブリオ属の細菌に対して強い殺菌活性を持つことが明らかになった。
実際コレラ菌は、遺伝子変異によってDAO活性を全く持たないマウス(DAO-nullマウス)の小腸では野生型のマウスと比較して、約1,000倍感染しやすいことがわかった。これらのことからDAOは小腸内で抗菌タンパク質として作用し、生体防御に関与していると考えられる。
今回の研究で得られた知見は、腸内のD型アミノ酸代謝を通じた新規の感染症治療への応用が期待されると、共同研究グループは述べている。
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