質量分析計で規則的に検出されるイオンピークのクラスタに着目
京都大学は7月28日、質量分析計で規則的に検出されるイオンピークのクラスタ(集団)に着目することで、微生物複合培養液から新規抗生物質ストレプトアミナール類を発見したと発表した。研究は、同大学大学院薬学研究科の掛谷秀昭教授らと、東京大学大学院農学生命科学研究科の尾仲宏康特定教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に7月27日付けで掲載された。
画像はリリースより
近年は、天然資源からの新規化合物の報告数は減少傾向にある。創薬シーズの取得を目的に天然資源を探索しても、すでに報告されており、開発の余地の少ない化合物の取得に終わってしまうことが多々ある。現在、この問題を回避するべく、新しい生物資源の開拓やゲノム解析による二次代謝産物の網羅的な探索など、新しい方法論が模索されている。
共同研究グループは、近年、放線菌とミコール酸含有細菌の複合培養液から抗真菌化合物(5aTHQ)類を見出した。5aTHQ類には少なくとも8つの類縁化合物が存在し、それらは質量の差が14であることから、質量分析計では14マスユニットおきに観測されるイオンピークのクラスタ(集団)として検出される。この質量分析データは5aTHQ類に特有のものであることから、異なるイオンピークのクラスタに着目することで新規の化合物群を容易に取得できると予想した。
天然有機化合物のケミカルスペース拡張の可能性
14マスユニットおきに検出されるイオンピークを同複合培養液から探索したところ、新たなイオンピーク・クラスタ(m/z=270、284、298、312、326)を見出した。これらのイオンピークに相当する化合物はこれまでに報告されていなかったことから、目的のイオンピークを示す化合物を精製し、化学構造を解析したところ、ストレプトアミナールと命名した新しい構造を有する抗生物質であることが明らかになった。
天然有機化合物の質量分析データのデータベース化や、生合成遺伝子の網羅的解析を基盤にした新規化合物の探索方法の開発が世界中で試みられており、現在、既存のパーツからなる化合物の同定、取得には威力を発揮している。しかし、全く新しい化学構造を持つ化合物を、大規模データの統計解析だけで取得することは非常に困難とされている。
今回の研究では、分子量14違いという特徴を持った化合物群に注目することで、新しい炭素骨格を有する化合物群の取得に成功。このことは、天然資源に対して新しい検索方法を適用することで、天然有機化合物のケミカルスペース(化学種の多様性)を拡張することが可能であることを強く示唆していると、共同研究グループは述べている。
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・京都大学 研究成果