Nax、TRPV1、TRPV4の遺伝子欠損マウスで行動解析
基礎生物学研究所は7月27日、統合神経生物学研究部門の作田拓助教と野田昌晴教授らの研究グループが、遺伝子欠損マウスを用いた実験から、体液ナトリウムのチャンネル分子、Naxの情報が水分摂取行動制御を担っていることと、その情報伝達の仕組みを明らかにしたと発表した。研究成果は、米生理学会誌「American Journal of Physiology – Regulatory, Integrative and Comparative Physiology」に8月1日付けで掲載される。
画像はリリースより
体液(細胞外液)の塩濃度を一定に保つことは動物の生存にとって必須。体液のナトリウム(Na+)と水のバランスが崩れた時、例えば、脱水状態に陥ると、体液中のNa+濃度と浸透圧が上昇し、この時ヒトは水分摂取を行うとともに塩分摂取を抑制する。
同部門の研究グループはこれまでに、脳弓下器官および終板脈管器官のグリア細胞に発現するNaチャンネル分子、Naxが塩分摂取行動制御を担うNa+濃度センサーであることを明らかにしたが、水分摂取行動制御を担うセンサー分子は不明だった。
研究グループは、脳内のセンサー分子を直接刺激するために、高濃度の塩化ナトリウム溶液やソルビトール溶液を脳室内へ注入する実験方法をとり、Nax、TRPV1、およびTRPV4の遺伝子欠損マウスを用いてその行動解析を行った。TRPV1とTRPV4は浸透圧センサーとして水分摂取行動の誘発に関与していないこと、さらに研究で検討した分子以外の未知の浸透圧センサーが存在していることが示唆された。
水分摂取行動惹起のシグナル伝達機構のモデル提唱
次に高濃度の塩化ナトリウム溶液を脳室内へ注入したところ、Nax欠損マウスとTRPV4欠損マウスで、水分摂取が野生型マウスやTRPV1欠損マウスに比べ半分程度であることから、この2つの分子が体液Na+濃度上昇よる水分摂取誘発に関与していることがわかった。Nax/TRPV4二重欠損マウスの水分摂取量は、それぞれの遺伝子欠損マウスと同程度だったことから、NaxとTRPV4は同じ情報伝達経路を共有していることが推測された。
エポキシエイコサトリエン酸の合成阻害剤であるミコナゾールの塩化ナトリウム溶液注入時の水分摂取に対する影響を調べたところ、ミコナゾールは、野生型マウスの水分摂取量をNax欠損マウスやTRPV4欠損マウスと同程度まで減少させたが、Nax欠損マウスとTRPV4欠損マウスの水分摂取をさらに減少させることはなかった。逆にエポキシエイコサトリエン酸やその前駆体であるアラキドン酸は、Nax欠損マウスの水分摂取量を野生型マウスレベルまで回復させたが、TRPV4欠損マウスの水分摂取を回復させることはなかった。
これらの結果はNaxが水分摂取行動制御を担うNa+濃度センサーであり、その情報はエポキシエイコサトリエン酸を介して下流のTRPV4へと伝えられることを示している。TRPV4がグリア細胞ではなく神経細胞に発現していることが判明したことから、研究グループは、水分摂取行動惹起のシグナル伝達機構のモデルを提唱している。
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