肝臓、腎臓のタンパク質を最先端プロテオミクス技術で解析
熊本大学は7月26日、同大学大学院生命科学研究部微生物薬学分野の大槻純男教授らの研究グループが、腸内細菌叢(腸内フローラ)の変化による薬の効果への影響を理解するために、肝臓と腎臓における薬の効果に影響を与えるタンパク質の腸内細菌叢による変化を明らかにしたと発表した。研究成果は、分子薬剤学分野の雑誌「Molecular Pharmaceutics」オンライン版に7月5日付けで掲載された。
画像はリリースより
生活において、腸内細菌叢に著しい影響を及ぼす因子として抗菌薬、抗生物質の服用が挙げられるが、研究グループは、不必要な投与によって引き起こされた腸内細菌叢の変化が、同時に服用している治療に必要な薬の効果を変えてしまう可能性も考えられるとしている。
そこで、腸内細菌叢の総量が低下しているモデルマウスとして、長期間(出生時から)腸内細菌を有さない無菌マウスと、抗菌薬を短期間(5日間)投与したマウスを使用し、正常な腸内細菌叢を有するマウスに対し、これら2つのモデルマウスの肝臓および腎臓で量が変動している薬の代謝および輸送に関わるタンパク質を、最先端プロテオミクス技術によって明らかにした。
薬の副作用の低減や個々の患者に最適な投与設計に期待
その結果、最も顕著に量が減少した薬物代謝酵素であるcytochrome P450 2b10(Cyp2b10)は、その量が最大96%減少しているだけでなく、肝臓における薬の代謝能力が最大82%低下していることが明らかになった。同様に薬物代謝酵素であるCyp3a11も両方のモデルマウスの肝臓で、その量が最大88%減少。この2つのマウスの薬物代謝酵素(Cyp2b10およびCyp3a11)に対応するヒトの薬物代謝酵素(CYP2B6およびCYP3A4)は、市場の半分以上の医薬品の代謝に関わることが報告されている。
さらに、薬物輸送体であるbreast cancer resistance protein 1(Bcrp1)は両方のモデルマウスの肝臓でその量が50%以上減少した。Bcrp1は多くの種類の抗がん剤を運ぶタンパク質だが、抗がん剤はその副作用である骨髄抑制に伴う感染症の治療・予防のために、抗菌薬が併用されることがある。つまり今回の研究によって、これらのタンパク質で代謝もしくは輸送される薬は、腸内細菌叢の変動によって薬効もしくは副作用の発現が減弱・増強される可能性が明らかとなった。加えて、Cyp3a11およびBcrp1に関しては抗菌薬を短期間投与したマウスにおいても、無菌マウスと同等の量の減少であったため、短期間の腸内細菌叢の変動であっても薬の効果に影響を与える可能性があるとしている。
今後、ヒトにおいても同様のメカニズムが働いていることが確認されれば、腸内細菌叢の変化による薬の副作用の低減や個々の患者に最適な投与設計に貢献できることが期待されると、研究グループは述べている。
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