■県薬に打撃、面分業縮小か
滋賀医科大学は、附属病院の敷地内に2軒の薬局を誘致する。公道に面した患者用駐車場の土地の一角を事業者に有償で貸し出し、そこに事業者が自己資金で3階建ての施設を建設。1階には2軒の薬局とコンビニエンスストアが入居し、2、3階部分は教育・研修施設として大学が利用する。複数業者の選考を経て今月、日本調剤、フロンティアの2薬局の入居を計画に盛り込んだ事業者を優先交渉権者に決めた。敷地内薬局は、来年秋頃から営業を開始する見通し。同院の近隣には、滋賀県薬剤師会の会営薬局しかなく、院外処方箋は面に分散していたが、規制改革会議の議論から保険薬局の構造規制が見直されたことを受け、敷地内薬局の誘致を決断。これにより、患者が敷地内薬局に集中するのは必至の状況だ。
滋賀医大が事業者に貸し出す土地は、外来患者用駐車場の一角にある車庫を含む周辺敷地約2000m2。事業を担う優先交渉権者に決まったJA三井リース建物は、正式な契約を経て、その土地に公道に面した形で3階建ての施設を建設する。
建設費は約5億円。約500m2の1階部分には2軒の薬局とコンビニが入る。合計約1000m2の2、3階部分には、大学用の設備として会議室、講義室、学習室、多目的室、図書室などが設置され、特定看護師らの教育・研修に活用される。必要な手続きを経て施設は来年夏頃に完成し、薬局の営業は来年秋頃から始まる見通しだ。
事業期間は基本的に30年間。事業者は、大学に土地の利用料を支払った上で、さらに必要な費用も含め施設の建設や維持管理、運営を引き受ける。1階部分の賃料を薬局やコンビニから受け取り、2、3階部分の賃料を滋賀医大から得て事業を成り立たせる。
滋賀医大は施設の賃料を支払うが、受け取る土地の利用料がそれを上回り、黒字になる見込み。国立大学の施設整備予算には限りがある中、建設費を負担することなく新たな教育・研修施設を確保でき、しかも支払い額を上回る収入を得られる。診療区域にあった機能を新施設に移し、空いたスペースを利用して診療区域の環境の充実を図ることもできる。
滋賀医大は敷地内に2薬局とコンビニを誘致する案をまとめ、その事業を担う業者を今年5月に公募。大手チェーン薬局と公募薬局で2薬局を形成する事業計画案など、計3グループから提出された案を精査し、事業の実現可能性などから、今月中旬に日本調剤を計画に含むグループを優先交渉権者として選定した。
滋賀医大で総務・財務・施設を担当する竹田幸博理事は、「県の保安林が広がる大学の周囲には商業施設は何もなく、患者や職員にとって不便だった。院内のコンビニは混雑する上に、夜間は閉まる。コンビニがもっとあればいいと考えたのが出発点だが、規制改革会議で敷地内薬局が話題になったため、その動向も注視していた」と振り返る。
規制改革会議での議論を経て保険薬局の構造規制が改定され、フェンスで区切る必要はないなど、病院と薬局が同一敷地内にある形態も原則認められるようになった。敷地内薬局のあり方が整理されたため、このような取り組みが実施しやすくなったという。
敷地内に薬局ができ、選択肢が増えることは患者のメリットになる。「患者によっては、ワンストップで薬をもらえるし、利便性は高まる」と竹田氏は話す。
同院の門前には、県の保安林が広がり、薬局の建設が可能な土地はない。正面出入口から数百m離れた近隣に滋賀県薬の会営薬局が1軒存在するだけだ。会営薬局への院外処方箋の集中率は20%台にとどまる。面分業が定着しているため、再診患者への影響は小さいと見られるが、新規外来患者が敷地内薬局に集中するのは必至だ。院外処方箋の面への分散が縮小する上、会営薬局の収入も低下すると見られ、滋賀県薬にとっては大きな痛手になりそうだ。