ADPKD患者の8%に脳動脈瘤が合併
京都大学iPS細胞研究所CiRAは7月19日、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)患者の皮膚細胞よりiPS細胞を作製し、そのiPS細胞より分化誘導した血管細胞を用いて、病態の一部を細胞レベルで再現することに成功したと発表した。この研究は、京都大学CiRA増殖分化機構研究部門の天久朝廷研究生らの研究グループによるもの。研究成果は、英科学誌「Scientific Reports」に7月15日付けで公開された。
画像はリリースより
ADPKDは、PKD1もしくはPKD2遺伝子の変異によって、腎臓や肝臓、すい臓などに多発性の嚢胞が形成される遺伝性の疾患だが、脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血などの脳血管障害の合併が多いことが知られている。ADPKD患者の約8%に脳動脈瘤が合併するとの報告があり、これは一般的な脳動脈瘤の発症率の4~5倍である。
脳動脈瘤合併のリスク因子としては、家族歴や年齢などが報告されているが、有用なバイオマーカーなどは現在までのところ見つかっておらず、脳動脈瘤発生の機序も不明だった。そこで、研究グループは、ADPKD患者由来のiPS細胞を用いて脳動脈瘤合併に関わる新規の病態関連分子を同定することを目指したとしている。
患者由来のiPS細胞から誘導した血管細胞で病態の一部を再現
研究グループはまず、脳動脈瘤合併ADPKD患者4人と非合併ADPKD患者3人の皮膚細胞に山中4因子を導入することで、iPS細胞を作製。それらのiPS細胞は、化合物および成長因子の組み合わせ処理を用いることで、血管内皮細胞および血管平滑筋細胞へ分化させることが可能であることを示した。
これまでの動物モデルやADPKD患者由来の細胞を用いた研究において、疾患細胞ではCaイオン動態に異常を認めることや、細胞外マトリックス代謝に関わる複数の遺伝子の発現に変化が見られることが報告されている。今回、ADPKD患者由来のiPS細胞から誘導した血管細胞を用いて解析を行ったところ、Caイオン動態に一部異常が認められ、さらにDNAマイクロアレイ解析において複数の細胞外マトリックス代謝に関わる遺伝子群の発現が変化していた。これらの結果によって、ADPKD患者iPS細胞由来の血管細胞が病態の一部を再現していることが示された。
次に、脳動脈瘤を合併するADPKD患者由来のiPS細胞から誘導した血管細胞と、非合併ADPKD患者由来の血管細胞の遺伝子発現プロファイルを比較したところ、脳動脈瘤合併ADPKD患者由来の血管内皮細胞においてMMP1の発現が有意に上昇していた。さらに、354人のADPKD患者の血液検体を用いてMMP1と脳動脈瘤合併との関連を解析したところ、脳動脈瘤合併患者において有意に血中MMP1値が上昇していることがわかった。この結果より、MMP1がADPKD患者において脳動脈瘤合併を予測するリスク因子である可能性が示されたとしている。
今後は、同じようにADPKD患者由来のiPS細胞から嚢胞が発生する腎臓や肝臓の細胞を分化誘導し、嚢胞の発生機序のさらなる解明および治療薬探索基盤を開発することが期待できる、と研究グループは述べている。
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