原因遺伝子300種類以上、だが同定されていないもの多く
防衛医科大学校は7月14日、PTEN遺伝子変異によって免疫不全症を発症することを世界で初めて発見したと発表した。これまで、PTEN 遺伝子変異によりその機能が損なわれると、巨頭症や多発性の過誤腫を引き起こし、甲状腺、子宮、乳腺などに良性・悪性の腫瘍ができるリスクが高くなることが知られていたが、免疫不全症を起こすことは知られていなかったとしている。
画像はリリースより
この研究は、防衛医科大学校小児科学講座の辻田由喜(研究科学生)、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県小児周産期地域医療学講座寄附講座の今井耕輔准教授、広島大学大学院医歯薬保健学研究院統合健康科学部門小児科学の岡田賢講師、小林正夫教授、かずさDNA研究所の小原收副所長らの研究チームと、岐阜大学小児科学講座、京都大学腫瘍生物学講座、名古屋大学小児科学講座、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターなどの共同研究によるもの。研究成果は米国の医学専門雑誌「Journal of Allergy and Clinical Immunology」に同日付けで掲載されている。
原発性免疫不全症の原因遺伝子は、これまでに300種類以上が知られている。しかし、いまだに原因遺伝子の同定されていないものも多く、診断のついていない患者も数多くいる。
「APDS-L」と提唱、新規治療法の開発に期待
研究グループは、原発性免疫不全症のデータベースであるPrimary Immunodeficiency Database in Japan(PIDJ)を活用し、登録された症例の中から、近年報告された原発性免疫不全症である活性化PI3K-δ症候群によく似た臨床症状を呈する症例を2例見出した。APDSでは、PI3Kが恒常的に活性化しており、リンパ球の異常増殖、細胞死によるリンパ球減少や抗体産生不全を引き起こすことが報告されている。このため、APDSではリンパ組織腫大や、易感染性などが特徴的な症状とされている。
次世代シークエンサーを用いた全エクソーム解析の結果、これらの症例では PIK3CD、PIK3R1 には変異を認めず、PTEN遺伝子に変異を有することが判明。PTENはPI3Kを抑制する働きがあるため、PTEN遺伝子変異によりその機能が損なわれると、PI3Kが優位に働き、結果的にAPDSと同様の病態を引き起こすことが推測された。今回の研究から分子生物学的にもこのことを証明し、このPTEN機能喪失性変異による免疫不全症を「APDS-L」と提唱したとしている。
この研究により、免疫不全症の新しい原因遺伝子が明らかになっただけでなく、 PTEN過誤腫症候群の新たな病型を発見することができたとしている。この発見をもとに、今後は未診断症例の診断や最適な治療法の選択、新規治療法の開発に結び付くことが期待される、と研究グループは述べている。
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