■経産省が中間報告‐バイオ技術革新で方向性
経済産業省は、バイオ技術がもたらす創薬等における技術革新の可能性を整理し、日本が取り組むべき方向性について中間報告をまとめた。ゲノム編集技術やビッグデータ解析などの技術革新が急激に進んだことにより、機能発現が制御された生物細胞「スマートセル」を用いた産業群を生み出す新たな時代の幕開けを提唱した。特に創薬分野では、オープンイノベーションの重要性が高まっているとし、製薬企業、アカデミア、ベンチャーが連携する「エコシステム」の構築に向けリスクを取った取り組みが不可欠と提言。政府にも後押しする施策の実行を促した。
産業構造審議会商務流通情報分科会バイオ小委員会の議論を整理したもの。中間報告では、DNAシークエンシング技術の進化によるゲノム情報など生体情報の増加、最先端IT技術を生かした生体ビッグデータ解析による生物機能解明、ゲノム編集技術による生物機能の改変、発現制御などの技術革新が、バイオ技術を新たな時代へ移行させつつあるとし、高度に機能がデザインされ、機能の発現が制御された生物細胞(スマートセル)を用いた産業群「スマートセルインダストリー」時代の幕開けと位置づけた。
創薬分野では、再生医療や遺伝子治療など今まで治療が不可能だった疾患の根本治療の実現が期待されるとし、最先端の情報処理技術とバイオ技術の活用により、機能がデザインされ、作られた賢い生物細胞「スマートセル」が生み出す新たな産業群を「スマートセルインダストリー」と定義した。
ゲノム編集やバイオインフォマティクスなど新たな分野に対応するため、創薬研究で必要となる技術領域が広がったことで、製薬企業が自社の研究所だけで研究を行うことは難しくなってきており、自社のリソースだけでなく他社や大学などが持つ技術やアイデアなど新薬開発につなげるオープンイノベーションの重要性を強調した。
一方、新薬開発の難易度が高まる中、シーズ創出へのベンチャー企業や大学の重要性が増しているとし、企業戦略として新薬のターゲットシーズをアカデミアやベンチャーから導入することを重要な課題に挙げると共に、オープンイノベーションの取り組みの結果、企業の持つ研究、開発、製造部門は自社で持つべきコア技術を押さえつつ、外部のCRO、CMOなどの利用が進んでいるといった変化を指摘。製薬企業のビジネスモデルが商社化しつつあるとの考えを示した。
ただ、日本発新薬の割合が低下し、創薬ベンチャーの成功例も少数にとどまる中、オープンイノベーションの取り組みは、製薬企業だけでなく、アカデミアやベンチャーなどでスタートしつつあるものの、各機関の連携は試行錯誤の段階にあり、相乗効果を生み出す「エコシステム」は未だ確立されていないなどの課題を挙げた。日本で革新的な新薬を生み出していくためには、製薬企業、アカデミア、ベンチャー企業の主要な機関がオープンイノベーション型の「エコシステム」の構築に向け、リスクをとって取り組んでいくことが不可欠とし、政府に対しても後押しする施策の実行が重要であると提言した。
その上で、創薬分野はスマートセルインダストリーの先行事例として、様々なバイオ医薬品を創出している一方で、日本の製薬企業はスマートセルを活用した創薬について、国際的な開発競争で十分な存在感を示せていないと指摘。アカデミアの優れた技術シーズを実用化につなげるイノベーション・エコシステムの構築が急務とした。