高純度のアストロサイトを作製し、病態解析
京都大学iPS細胞研究所は7月13日、てんかん・白質脳症などを来すアレキサンダー病患者由来のiPS細胞からアストロサイトを分化誘導し、患者の脳病理を再現し、患者の脳におけるアストロサイト分子病態の一部を解明することに初めて成功したと発表した。今回の研究は、京都大学CiRA増殖機構分化機構研究部門の近藤孝之特定拠点助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Acta Neuropathologica Communications」に7月11日付けで掲載された。
これまでグリア細胞のアストロサイトに関する病態研究は、疾患の原因となる遺伝子を強制的に過剰発現させた動物モデルや株化細胞モデルに頼ってきた。一方で、近年iPS細胞技術を用いることにより、生理的な遺伝子発現量を反映すると考えられる患者由来のアストロサイトを用いた解析が可能となった。
ヒトiPS細胞からアストロサイトを得るには長期の培養期間を要し、疾患モデルへの応用は困難だったが、研究グループは、ヒトiPS細胞からアストロサイトを分化誘導する方法を最適化することで、患者由来iPS細胞から高純度のアストロサイトを作製し、病態解析に用いたとしている。
さらなる病態理解と新薬の開発につながる期待も
研究では、健常人および、GFAP遺伝子に変異を持つアレキサンダー病の患者各3人からiPS細胞を作製し、安定維持することに成功。iPS細胞を、神経外胚葉を経てまずは神経系細胞へと分化誘導した後、培養基材への接着親和性の差を利用してアストロサイトの純度を徐々に高め、最終的に95%を超える純度でアストロサイトのマーカーであるS100βを発現する細胞集団を調製した。
その結果、アレキサンダー病患者から作製したアストロサイトの細胞質内には、GFAPで染色される束状もしくは点状の凝集物が見られた。既存のGFAP遺伝子を強制発現させた細胞モデルを用いた報告とは異なり、正常のGFAP遺伝子型を持つ健常人由来のアストロサイトには、異常構造物は見られなかった。さらに、このGFAP陽性凝集物を超解像顕微鏡技術により詳細に検討したところ、点状のGFAP陽性凝集物はαBクリスタリンを伴って、正常細胞骨格構造にそって存在することがわかった。
このGFAP陽性凝集物を、透過型電子顕微鏡で観察すると、アレキサンダー病患者由来のアストロサイト内には高電子密度構造物が見出された。この構造物は、細胞骨格を示唆する線維状構造物に囲まれており、アレキサンダー病患者の脳病理で見られるローゼンタール線維の特徴を有していたとしている。
今回の研究成果により、アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症などさまざまな神経変性疾患に患者由来iPS細胞から分化誘導したアストロサイトが研究プラットフォームとして応用できる可能性が示唆されたと、研究グループは述べている。
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