強力な接着性と安全性両立する生体材料の作製法開発
理化学研究所は7月11日、人工臓器の生体材料として使用されるチタンの表面に、ムラサキイガイ由来のバイオ接着成分を固定化することで、チタンに細胞を活性化する機能を付与することに成功したと発表した。この研究は、理研伊藤ナノ医工学研究室の張晨国際プログラム・アソシエイトら、吉林大学薬学部の王毅教授、中国科学院長春応用化学研究所の王宇助教らの国際共同研究グループによるもの。研究結果は、独化学雑誌「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に7月6日付けで掲載されている。
画像はリリースより
人工臓器の生体材料である無機材料は、強度については十分だが、移植後の生着に長い時間を要し、その間に感染症を引き起こして生着しない場合もある。また、代謝機能がないため、患者の高齢化に伴い、劣化や不具合が生じるなどの問題がある。この問題を解決するために、研究グループは、強力な接着性と生体に対する安全性を両立できる生体材料の作製法の開発に取り組んだ。
ムラサキイガイなどの貝類は、水中でも岩場に接着することができる。これは、自身が分泌する接着タンパク質による作用で、ムラサキイガイの接着性の源となるのが、ドーパ(DOPA)と呼ばれる化合物。DOPAは、天然アミノ酸のチロシンに水酸基がひとつ付加した物質で、チロシンよりも水素結合が強くなるため、さまざまな物質に接着できると考えられている。
成長タンパク質IGF-1のC末端にムラサキイガイ由来の接着性ペプチド結合
研究グループは、遺伝子組換え技術と酵素法によって、成長タンパク質IGF-1のC末端にムラサキイガイ由来の接着性ペプチドをつなげた「IGF-1-X-K-X-K-X(X=DOPA、K=リシン)」を作り出すことに成功。この新しいタンパク質の効果を調べたところ、金属材料のチタンに強く結合し、細胞増殖を活性化する効果を持つことがわかったとしている。
今回は、IGF-1を固定化するタンパク質として用いたが、人工骨や歯科インプラントには、骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein、BMP)などが有効であることが知られている。また、この方法を使えば、チタンの他にも広く一般的な生体材料への固定化も可能であり、用途に応じた分子をさまざまな素材に固定化することで、従来よりも優れた生体親和性の人工臓器が生み出されると期待できるという。
今後は、同手法の有効性を動物実験などでさらに確認し、最終的にはヒトに対する臨床試験を通して、人工関節や歯科インプラントの生着性の向上を確認する。臨床試験での安全性や効果が確かめられれば、再生医療関連の医薬品としての市販が期待できる、と研究グループは述べている。
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・理化学研究所 プレスリリース