米ワシントン大と老化、長寿、代謝疾患研究の5年間の学術連携協定締結
慶應義塾大学は7月11日、老化制御因子として期待されるNicotinamide mononucleotide(ニコチンアミド・モノヌクレオチド、NMN)をヒトへ投与する臨床研究を開始すると発表した。この研究は、同大医学部内科学(腎臓・内分泌・代謝)教室の伊藤裕教授、眼科学教室の坪田一男教授、薬理学教室の安井正人教授と、米ワシントン大学医学部の研究グループが共同で行うもの。
慶大医学部とワシントン大医学部は、2015年11月20日、老化、長寿、代謝疾患研究における共同研究協力を推進するため、5年間の学術連携協定を締結。この協定は、両者が相互に連携・協力して共同研究を進めることにより、同研究分野における最先端の国際研究プラットフォームの形成を目指すこと、同時に分野融合的な取り組みにより科学技術の進歩と豊かな長寿社会の実現に寄与することを目的としている。
研究グループは、加速する高齢化社会を見据え、加齢とともに増える疾病の予防を目指したさまざまな試みを実施。そして最近の研究から、体内に元来存在しているNicotinamide Adenine Dinucleotide(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド、NAD)が加齢とともにさまざまな臓器で減少することが、糖尿病などの疾病が生じる原因になることがわかってきた。NADは長寿に関わるとされる「サーチュイン」という分子を活性化することが知られており、このNADを体内で作るための材料のひとつがNMNだ。しかし、ヒトにおいては、NMNがさまざまな臓器にどのような影響を与えるか、詳しくわかっていなかった。
40歳以上60歳以下の男性10人で安全性と体内動態検討
そこで、研究グループは、NMNをヒトに安全に投与することができるか(安全性)、またNMNは人体においてどのように吸収されNADなどに変換されていくのか(体内動態)を確認するため、臨床研究を行うことを決定した。
研究では、40歳以上60歳以下の健康な男性10人を対象に、研究期間中同じ人に異なる量のNMNを摂取してもらい、生理学的検査や血液検査の変化から、NMN投与の安全性と体内動態に関する検討を行う。これによりNMNのヒトでの安全性と体内動態が確認できた場合、科学的根拠に基づいた加齢関連疾病の治療や予防のための栄養学的アプローチの実現に向けた、さらなる臨床研究への発展が期待されるとしている。
なお、この研究は、NMNの医薬品としての開発を目的とする治験ではなく、学術的知見を得ることを目的とする臨床研究として実施される。慶大、同大病院による直接の被験者募集は行っていない。
▼関連リンク
・慶應義塾大学 プレスリリース