創薬に必要なB型肝炎ウイルスの感染培養系の開発に挑戦
東京医科歯科大学は7月8日、ヒトiPS細胞を用いてB型肝炎ウイルスを長期にわたり感染・培養することに世界で初めて成功したと発表した。この研究は、同大学大学院医歯学総合研究科肝臓病態制御学講座の朝比奈靖浩教授らの研究グループが、国立感染症研究所、東海大学、国立国際医療研究センター、東京大学医科学研究所と共同で行ったもの。研究成果は、国際科学誌「Scientific Reports」オンライン版に同日付けで発表された。
画像はリリースより
B型肝炎ウイルスの新薬の開発には、シャーレの中の細胞でウイルスを感染させ培養することが必須だが、これまではヒトから摘出した肝臓あるいは肝臓がんから細胞を取り出す必要があった。しかし、前者は入手困難な上に長期培養が不可能で、長期にわたってウイルスを排除できないB型肝炎の特徴を再現することが難しいこと、後者はがんからできた細胞のため、生体内の普通の細胞とは全く異なる性質に変化しているという決定的な欠点があり、創薬研究を困難にしていた。
研究グループでは、iPS細胞がヒトのあらゆる臓器になる能力を有する多能性の幹細胞であることに着目。iPS細胞から長期間培養することが可能なヒトの肝臓細胞を作成し、創薬に必要なB型肝炎ウイルスの感染培養系の開発に挑戦した。
より生体内に近い状態での薬剤作用機序の解析可能に
研究グループはまず、これまで長年培ってきたiPS細胞分化・培養技術を用い、ヒトiPS細胞から肝前駆細胞株を樹立。この細胞の性状を詳細に検討すると、生体内の肝臓細胞と類似の性質を保持し続けていることが確認された。さらに、これまでの生体肝臓由来の細胞では不可能であった、シャーレの中での長期間の培養が可能だったとしている。
この細胞において野生型のB型肝炎ウイルスと蛍光を発する組み換えB型肝炎ウイルスを用いて研究を進めたところ、B型肝炎ウイルスの感染が成立し、実際の患者と同様のウイルスの持続感染と潜伏感染を再現することに成功。さらに、ヒトiPS細胞に人工的に遺伝子を導入する先進技術を駆使して、B型肝炎ウイルスの受容体遺伝子を高発現するiPS由来肝前駆細胞株を樹立したところ、感染効率が向上し、より効率的で創薬研究に適した感染培養系の開発に成功した。
実際に、この感染培養系を用いて複数の抗ウイルス薬の効果を検討したところ、B型肝炎ウイルスの抑制効果が確認され、従来使用されていた肝がん由来の細胞株とは異なり、より生体内に近い状態での薬剤作用機序の解析が可能だったと、研究グループは述べている。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース